そしてタワーに登り僕は星空を見る
「女なんて一発殴っとけば静かになるもんですよ。あはは。」
そう飲みで語っていた40になるゆうじんは先日強制わいせつ罪で逮捕された。
僕の家のインターホンが鳴った。
「はぁい。」
ドアを開けると二人の警察官がいた。
「どうも、こちら警察の者です。先日の事件の件で、署まで同行を願います。」
めんどくさいな。そう思いながらパトカーのついた車に乗車した。
2時間ぐらい事情聴取された後解放され外の空気を吸う。
「ったく。やっぱ人殺しの友人だわ。とっとと死ねばいいのに。」
門番の警官の独り言を聞き流して歩く。
「行くか。」
僕はパチ屋に足を運ばせた。お金がすぐ尽きてしまったのでパチ屋併設のリラックスルームでニュースを見る。
「次のニュースです。強制わいせつ罪及び、、、」
「帰るか。」
家路に帰る。
家には誰もいない、一人暮らしだからだ。
先程買ってきたコンビニ飯を腹に入れ風呂に入らず布団に潜る。
人生つまんない。さっさと死ねたらな。この生活もいつまでできることやら。
深夜0時僕は目が覚めてしまった。昔じぃじが言ってることを思い出す。
今日やることを頑張ってやり切れば夜はぐっすり寝れるもんなんじゃ。寝れないのは今日という日にまだやり残したことがあるんじゃ。
ああ、僕はなにをやれてないんだろう。
そんなことを考えても無職ニート、ゲームで言うとひのきのぼうとなべのふたのみで討伐に出かけてるような冒険者にはわかるわけがない。
なにもやれてない。スライムすら倒せないよこれじゃあ。
ゴロンと布団から出た肉ダルマは夜を徘徊し始めた。
夜は好きだ。なんか自由な気持ちになる。何からも縛られてないそんな開放感が僕の気持ちを豊かにする。
しばらく歩くとある有名なタワーにたどり着く、タワーにはエスカレーターが付いているが夜中なので作動しない。
「仕方ない」
そう言うと僕は柵を飛び越え非常用階段からタワーを登ることにした。なぜ登るのか、みなはそう思うだろう。でも考えてみて欲しい。登山家になんで山に登るんですか?そうきいているのと一緒なのだ。
そこに山があるから登る。そう登山家は答えるだろう。
僕も一緒だ。そこにタワーがあるから登る。
きっとタワーの頂上から見る星はさぞや綺麗なのだろう。
3、4時間立っただろうか。ようやくタワーの頂上に到達した。夜空にはそれは綺麗な星があった。
しばらく見ていると夜空に流れ星が降る。夜空を見にきただけだったのに流れ星が見れるなんて。。。。
「あれ、。」
何か頭がぐるぐるする。なにかを思い出そうとしているのか。
ぁあ確か。あの時も流れ星が降っていった。
この流れ星にはきっと沢山の人の魂が宿っているだなんてオカルトを信じ込む人間は僕だけなのだろう。
実はというもののこういった生産性のない日常をここ何度か繰り返している。
星を見ることは僕にとって使命のような感じがして、それが僕に与えられた罪なのかも知れない。
いつのまにか日が昇り始め太陽の光が乱反射し、だいだいろの海を作り始める。
上空にはヘリコプターが飛ぶ。forgetREALという朝のテレビ番組の天気予報で映し出される映像を撮影するために飛んでいるヘリコプターだ。
「夢限。」
僕はヘリコプター見てそうぽつりと呟いてタワーを降は始める。
夢ある限り人は進む。そういう意図で作られた人類史上初の宇宙艦、夢限。打ち上げられた日からその宇宙艦は消息をたった。原因は初歩的なミスだった。エンジントラブルだ。出発の最後に機体の点検を担当していたのは僕である。若き未来を切り開く社長として、一躍時の人となっていた。
事件が起きた後、宇宙開発株式会社REALは倒産し、社員には多額の借金を背負わせ、僕は人殺しとして非難され人影に隠れて生きている。当時は乗客1000人を乗せていた。その中には僕の妻と娘もいた。
僕は夢限に誇りと希望を持っていた。最高のチームで何度も試験を繰り返し、試行錯誤して開発、研究を何度も行い、完成した宇宙艦。人類の夢をのせた宇宙艦。それが最悪の事態を巻き起こすなんて。
僕の社員は次々と自殺していき、亡くなった社員の墓、その親族に頭を下げ続けた。
頭の中で回想しているうちにタワーの下に降りてきた。
「なぜお前がここにいる。人殺し!」
花束を持ったおばさんが僕を出迎えていた。いや出迎えていたわけではないか。
僕はおばさんに頭を下げた。すると頭に痛みが生じた。どうやら花束をぶん投げられたようだ。
「お前のせいで、お前のせいで。千夜も咲も奪われた。なぜまだ生きている!人殺し!」
千夜は僕の妻で咲は僕の娘だ。僕はただおばさんに頭を下げることしかできなかった。きっと泣きながら叫んでいるのだろう。声は震えていた。1時間以上罵倒を受け。おばさんは去っていった。ずっと同じ体制だったから腰を痛めてしまった。
12月24日。今日は妻の娘の命日だ。横には宇宙開発株式会社REALの跡地があり、その門には石碑がある。その石碑には被害にあった人間の名前が刻まれている。
僕はその石碑に触れ涙を流し込む。僕はなぜ生きているのだろう。両親は他界し天涯孤独となった僕に誰も生きて欲しいと思うものはいないだろう。
生き恥を晒し続けるならいっそのこと。
そんな勇気もないから僕は今日も生き続けている。
いつのまにかあたりは暗くなっていた。12時間以上僕は立ち尽くしていたのか。
「飲むか。」
おぼつかない足取りで僕は居酒屋へ向かった。
中には仕事帰りのサラリーマン二人がいた。
「おい。祐人、酔いすぎだって。」
「女なんて一発殴っとけば静かになるもんですよ。あはは。」
どこからか聞いたことあるセリフだ。
どこか。
「大将すみません。お代ここおいときます!ほら行くぞ祐人!」
そうしてサラリーマン二人は外を出る。
そしてすぐに悲鳴が上がる。
「おい!祐人何してるんだ!」
「ぉおい!一発やらせろよ。」
「やめてください!警察呼びますよ!」
奇行に走った祐人が女性を押し倒し身ぐるみを剥ごうとする。
もう一人の男は祐人を引き剥がそうとする。
「千夜ぉおお!咲ぃいいいい!どうして、どうしてこんなことにぃ!!」
慌てて店を出てきた大将が警察に電話を入れる。
「祐人。。」
もう一人の男性が少し力を緩めた瞬間祐人は手を振り解きバッグからナイフを取り出す。
「祐人、何を。」
「会えるかなぁ。死んだら会えるかなぁ。うわぁぁぁああああ!」
ただごとじゃあない。どうにかしなくては。足を動かそうとすると、凄まじい頭痛が襲いかかる。僕はうずくまることしかできなかった。
揉み合いになる二人。倒れ涙を流す女性。慌てる大将。
「ぐへぇええ。」
ドバドバドバドバ。
夜の電光灯が地面にぶちまけられた液体を真っ赤に照らす。
「え。」
真っ赤になっていた祐人の顔がどんどん青ざめていく
倒れたのは祐人ともみ合っていたサラリーマンだった。
「僕は、俺は!なんでごどをぉおおおおおおおお!!ゔわぁあ"あ"あ"あ"」
パトカーの音が町中に鳴り響く。
祐人は取り押さえられ手錠をかけられる。
するとだんだん目の前が歪んで目の前が見えなくなった。
「続いて次のニュースです。強制わいせつ罪及び殺人罪の容疑で逮捕された元宇宙開発株式会社REAL社長、町木祐人容疑者の死刑が決まりました。」
そうか。僕だったのか、ぁあそうだった。僕だ。全部僕が悪かったんだ。
死んでもなお僕はこの夢を無限に見る。12月24日から逃れられない。また僕の記憶は消え、もう一度冒頭に戻り繰り返される。
「夢限だな。」
“そしてタワーに登り僕は星空を見る”