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第40話 秒速の戦い

 コウ中将は腕組みしながら我々を見下ろしている。

(相変わらずデカイな……)

 相変わらずといっても一度しか会ったことはないのだが、やたらと印象に残っている。

 この男、長身のうえに顔が小さいので実際以上に大きく見える。軍服にしてはダボっとした着こなしだが肩幅が広くいわゆる逆三角形だ。今時珍しくメガネをかけているのだが、その奥の目は笑っていない。

 その冷たい視線に嫌味で返す。

「たった一人か? 入国した時はもっと大勢で迎えてくれたのに」

 するとコウ中将は口角を上げて答える。

「別に経費削減というわけではない。これでも義理を感じているのだよ。クロウリーの件では部下が世話になったようだからね」

 コウ中将の言葉に改めて思った。

(部下……ね。やはりサァラはバベルの意思で動いていたということか)

 どこまで本当かは分からない。そもそもこの男が信用に足るかどうか怪しいものだ。

 そういえば彼はなぜ我々の存在に気付いたのか疑問に思って尋ねる。

「なぜ気が付いたんだ? 我々の侵入に」

「簡単なことだ。『歩行認証』だよ」

 うかつだった。

(……歩行認証か)

 体重移動、歩幅、リズム……誰一人としてまったく同じ歩き方というのは存在しない。それを利用して足裏にかかる圧力から個人を識別するシステム。床下に仕込まれたそれに気付かなかったとは…。

「なるほど。どおりで警備が手薄だと思った」

 素直に感想を述べるとコウ中将はニヤリと笑った。 

「一応は部外者立ち入り禁止なのでね」

 もしかするとザルのように思われたセキュリティシステムはフェイクだったのかもしれない。目に見える部分を甘く、その実、足元に巧妙な網を張って侵入者を捕捉する。単純な手法ではあるが見事に引っ掛かってしまったものだ。

 今さら動揺してもはじまらないので話題を変える。

「ところでアンタの身分。中将なのか准将なのかはっきりしてくれ。紛らわしくて敵わん」

 デンバーで本人が名乗った時は『中将』、入国時に尾行してきた連中から聞き出した時は『大校(准将)』だった。どちらが本当なのか?

 コウ中将は含み笑いを浮かべて解説する。

「どちらも間違いではない。C国軍での私の階級は准将だ。だが、それは表向きのものに過ぎん。本当の階級、すなわち組織の中では中将なのだ。つまりC国軍の特殊外務部は『バベル』が支配しているのだよ」

「どうでもいいが、ややこしいな」

「フン。私がどちらに軸足を置いているかは、まあ、想像にお任せしよう」

 コウ中将のコメントからC国軍の一部は『バベル』に支配されていることが改めて確認できた。デンバーの一件にしてもC国軍がクロウリーを欲しがる可能性はゼロではないので「C国軍=バベル」とは断定出来なかったのだ。しかし、彼の口ぶりからはC国軍の一部はバベルの意向で動いていることが伺える。

(C国軍にも根が広がっているようだが、バベルはもっと大きな組織ということか……)

 しばしの沈黙を破るようにチャンが口を挟む。

「サァラは? サァラは今どこに?」

 チャンはまたそれだ。

(まったくこの少年は……サァラのことより自分のことを心配しろよ)

 彼女の事よりもこの状況をどう切り抜けるか少しは考えて欲しいものだ。

 コウ中将はチャンの質問に答える。

「サァラ・タゴールには任務を与えている。今頃はバンクーバーだ」

「ええっ? バンクーバーってカナダ? なんで?」

「彼女には一個中隊を任せている。少々、厄介な任務だが組織として見逃すわけにはいかないんでね。詳しくは話せないが」

 チャンは何とか情報を引き出そうとする。

「それって危険な任務ってこと? サァラに何をやらせてるんだよ! 言えよ!」

「なるほど君もあの子の信者か。やはり私が見込んだ通りだ。サァラ・タゴールには類稀なるカリスマ性があるようだ」

 コウ中将の口ぶりはまるで評論家のようだ。

 しかし、バンクーバーといえば思い当たる節がある。なので試しに聞いてみた。

「それは『悪魔の口』か?」

 それを聞いてコウ中将は微かに眉を引きつらせた。どうやら図星のようだ。

「なぜそれを……いや。君達を見くびっていたようだ。そうとも。確かにサァラ・タゴールを向かわせたのは『悪魔の口』だよ」

(悪魔の口。イタチ男が言っていたことは本当だったのか……)

 核爆発で海底火山を活性化させるなどという馬鹿げた計画をまさか本当に実行するつもりだとは…。

 気を取り直してコウ中将に問う。

「アンタ等はヘーラーと対立しているらしいが、奴等の理科実験に参加する動機はなんだ?」

「……理科実験か。面白いことを言う。どこまで知っているのかは分からないが中々の情報網を持っているようだな。だが、断っておくが我々は彼等に同調するつもりはないよ」

「だったらなぜサァラを派遣する?」

「何も彼等の邪魔をするつもりはない。我々ぐらいの規模になると本来はお互いに干渉し合うことはしないのだよ。文字通り戦争になってしまうからな。しかし何れ彼等とはやり合わなくてはならないだろう。だからその前に軽く牽制しておく必要がある。その点、あの子はうってつけだ。彼等も子供相手に本腰を入れるわけにはいくまい。それに彼等はあの子にご執心のようだからね」

 コウ中将の言い方はいかにも嫌味ったらしい。

 サァラの存在はヘーラーにとっては最重要項目だというのに敢えてそこに彼女を向かわせるという。バベルという組織は何を考えているのか? その真意を問いただす。

「ヘーラーはサァラの遺伝子を欲しがっている……貴様、それを知っていてサァラを送り込んだというのか?」

「それが何か?」

 悪びれもせずにコウ中将はそう開き直った。

 するとその時「ふざけるなっ!」と、チャンが飛び出した。

 彼は拳を振り上げコウ中将に向かって突進する。が、やみくもに……ではない。

 チャンはまず普通の速さで左から突っ込み、切り返してクロックアップ、死角に向かって潜り込む。

(うまい! いつの間にそんな技を?)

 虚を突かれたコウ中将は反応できない。そこに右側から回り込んだチャンの拳が伸びる!

 が、次の瞬間、「なっ!?」と、声を上げたのはチャンの方だった。

(止められた、だと?)

 チャンは右腕を伸ばしたままの格好で固まっている。よく見るとコウが正面を向いたまま左手でチャンの右手首を掴んでいるではないか。

(バカな……3倍速近く出ていたはず……)

 コウ中将はチャンの方を見ようともしないで笑みを浮かべた。

「困ったものだ。まあいい。礼儀を教えてやらんとな。先輩として」

 そう言うや否や、コウ中将はチャンの方に向き直ると高速で右のパンチを放った。

「グッ!」と、いう悲鳴と共にみぞおちに一撃を喰らったチャンが吹っ飛ぶ。

(速い! ……まさか)

 コウ中将は何事も無かったかのように軍服の裾を軽く払うと再び背筋を伸ばした。

「実は私もここの卒業生なのだよ。それにこれでもクロックアップは得意なほうでね」

(やはりそうか……あの動きは訓練でどうにかなるレベルじゃない)

 それにクロックアッパー向けの戦い方も心得ているようだ。普通、人間が動いている物体を見る時には無意識にそれを目で追ってしまう。この時にどうしても眼球が動くのだがそこに一瞬だけスキが出来る。その為、チャンがやったように緩急をつけて急に進路を変える事と死角を利用する事で相手は「消えた」と錯覚するのだ。しかし恐らくコウ中将は眼球を動かさず広い視野でチャンの動きを見切ったのだろう。

「やれやれ。一筋縄ではいかないようだな」

 そう言ってから首と肩を回した。ここは、やるしかないようだ。

 コウ中将は満面の笑みを浮かべてウォーミングアップを始める。

「そうこなくては! 一度お手合わせをしたいと思っていたところだ」

 その言葉が余裕からなのか無知からきているものかは分からない。

(チャンの攻撃が軽くいなされたということは……まずは3倍速で様子をみるか)

 ジグザグのステップで目くらましというのは通じない。それなら正攻法だ。

 1……七歩前進、右足を前に、左の掌底で下から突き上げる。

  コウ中将はバックスゥエーでそれを交わす。

 2……すかさず右のボディブロー3連発、左のフック、右のストレートを見舞う。

  コウ中将はそれぞれの腕でガード。

 3……半歩下がって左のローキック、その勢いで左軸足の回し蹴り、左パンチ、右の掌底へ繋げる。

  コウ中将は膝を曲げてローキックを受けるとバックステップと左右のステップで交わす。が、最後の回避が大きすぎてよろめく。

(体勢が崩れた!)

 そこで4……の追い討ちに入る。が、コウ中将の身体が回転、足がグンと伸びてきた。

(罠か!)

 間一髪で上体を引く。が、顎の先端に痛みが走った。

(危ないところだった……何てトリッキーな蹴りを繰り出してくるんだ)

 思わずスピードを上げてしまった。

 一旦、お互いの動きを止める。

 コウ中将が感心する。

「……流石と言うしかないな。この攻撃を交わされたのは初めてだ。普通なら顎が砕かれているところなんだが」

「それは勘弁してほしいね。ビールを飲めなくなるからな」

 それにしてもこのコウという男……少なくともチャンよりスピードは上だ。

 コウ中将は不敵な笑みを浮かべると拳法の構えをとり、少し重心を落とした。

「フフ。まさかこの程度で終わりではなかろう。本気を出してもらわないと困る」

 そんな彼の挑発に乗ってやることにした。

「たまには本気を出してみるか……」

 とはいえ全速の5倍速にはリスクがある。4倍速でどこまでやれるか、だ。

 1……3歩前進、右、左、右、右でフェイント。左に切れ込んで手刀で側頭部を狙う。

  が、コウの腕に弾かれ当たりが浅くなる。

 2……右足軸の左回転で後ろを取る。と同時に左の膝蹴り、右・左の順で掌底。

  ヒットはするもののコウは半身でそれを受けながら回転、バックステップで逃れる。

 3……1歩下がって敵の体勢を見る。左の足元、右のわき腹に狙いを定める。

 4……左のローキック連発、左フックを見せておいて右のボディに角度を変えてパンチを3連発。

  右拳の手応えはイマイチながら当たってはいる。

 5……渾身の左掌底でトドメを狙う。

  が、ふっとコウ中将が屈んだ。

(しゃがんだ?)

 地面すれすれに脚払いが飛んでくる。思ったより相手の足が伸びてくる。止む無くジャンプで避ける。が、タンポポみたいに地面に張り付いていた体勢からコウが跳ねた。

(しまった!)

 空中ではクロックアップ出来ない! 

 コウ中将は立ち上がりの勢いを利用して右の拳を突き上げてきた。

 とっさに腕をクロスさせて拳を受ける。が、かなりの衝撃。恐ろしい勢いで後ろに吹っ飛ばされる。

 一発で軽く身体を浮かされてしまった。だが、追い討ちは無い。

 体勢を整えてコウ中将の反応を伺う。

「参ったね。こんなに時間がかかるのは初めてだ。サシの勝負だというのに」

 それは事実だった。クロックアッパー同士の戦いなど傍から見ればほんの数秒にすぎない。が、当人達にとってみれば、その手数の多さは半端ではない。一瞬のうちに数手先を読んで攻撃を繰り出し、同時に相手の攻撃もガードしなくてはならない。実に神経を消耗する。

 コウ中将の表情からは彼の本気がどの程度なのかは読み取れない。が、笑みは消えている。ダメージも通っているはずだ…。

 コウ中将は息を整えながら呟く。

「噂通りだ。これが生まれながらのクロックアッパーか。ついていくのが精一杯だな」

「そういうアンタもなかなかのものだ。だが、もうひとつ上のギアはないのか?」

「そんなものがあったらとっくに出している」

「そうか。それを聞いて安心した」

「な……まさか、まだ上があると言うのか!?」

「別に出し惜しみしてた訳じゃないんだがね」

 そう言ってから深呼吸をひとつ。いい加減、終わりにしないと身体がもたない。

「くっ!」と、コウ中将が構えをとる。が、もう手加減はしない。

 1……全速で前方に加速、コウ中将のガードが上がる前に左肘を全力で打ち込む。と、次に真後ろに回りこむ。

 肘打ちの手応え有り。

 2……右の手刀でコウ中将の首を刈る。これも全力だ。

 これも確かな手応え。

(これで終わりだ) 

 最後の一撃でさすがのコウ中将も沈んだ。

 膝をつき、前のめりに倒れるコウ中将を確認してから緊張を解いた。と、同時にこめかみに強い痛みを感じる。まるで顔面に電気が真横に突き抜けるような痛みだ。

(やはりリスクが大きいな……) 

 疲労感がねっとりと押し寄せてくる。方膝をついて目を開けていられない程の痛みをやり過ごす。

「ねえ。大丈夫なの?」

 ナミが背中をさすってくれた。

「ああ。さすがに疲れた。それよりチャンは? あいつの方が心配だ」

「ちょっと気を失ってたみたいだけど大丈夫そうよ」

「そうか」

「そんなにダメージくらってた? そうは見えなかったけど」

「……言ってくれるよ。傍から見ればそうかもしれんが」

 やれやれ。やはりクロックアッパーの苦労など理解して貰えないのだ。

 ようやく痛みが去り、ゆっくりと立ち上がる。見るとチャンが咳き込んでいる。コウ中将の一撃がよほど堪えたのだろう。

「起き上がれるか? 少年」

 そう声を掛けるとチャンは駄々っ子のように首を振った。

「無理。無理です。無理ですってば! 痛すぎです!」

「それだけ大きな声が出るなら平気だな」

 笑うと背中が痛い。4倍速以上は滅多に使わないので筋肉にもかなりの負荷がかかるのだ。

 膝の汚れを払い大きく息をつく。コウ中将の援軍が来る前にここを出ないと面倒だ。

「立て、少年。もうここに用は無いだろう」

「そうね。なんだか気味が悪いわ。早く帰りましょ」

「えー、そんなぁ! 僕はもうちょっと……」

「お前さんだけ残るのか? 俺達は先に帰るぞ。冷たいビールが飲みたくなったからな」

 チャンは尚も食い下がる。

「でも、もしかしたら他の部屋にも秘密があるかもしれないじゃないですか」

「勝手にしろ! 俺はこれ以上付き合う気は無い。こんな下らないもの……」

 そう言い掛けた時だった。

「同感だな……」と、我々3人の以外の人間の声がした。

(新手が現れたか?)と、周りを見回すがその気配は無い。

「まさか……」

 そう呟いて目を疑った。なんとうつ伏せでピクリとも動かなかったコウ中将がゆっくり起き上がろうとしていたのだ!  

(あれを喰らってもう立てるのか……)

 驚くべき回復力だ。普通なら半日は目が覚めない。

 首を押さえながらコウ中将は顔を歪める。

「参ったよ。潔く負けを認めよう」

 それを見てナミがファイティング・ポーズをとる。が、コウ中将は手を上げてそれを制する。

「心配するな。これ以上無駄な戦いをするつもりはない。それに君達を拘束することもしない」

「えらく殊勝な態度だな。ところでさっき同感と言ったのはどういう意味だ?」

「この施設のことだ。実に下らない。それは私も同じ思いだ」

 コウ中将の意外な言葉に我々は顔を見合わせた。

「だってここはあなた達の施設なんでしょ? これって一体何なの?」

 ナミの疑問にコウ中将が答える。

「お察しの通り人体実験をしている。我々の中では『地下農場』と呼ばれているがね」

 予想通りの回答にチャンが激高する。

「ふざけるな! お前らは狂ってる! 今すぐこんなこと止めろ!」

「フン。威勢のいい後輩を持ったものだな。その反応、君も大事な仲間を失ったクチか?」

「そうだよ! 親友を殺されたんだ。いいや。もしかしたら他の仲間も……」

 そこまで言ってチャンが口をつぐんだ。そしてコウ中将の顔を見て首を捻った。

「え? 今『君も』って……」

「言っただろう。私もここで育った人間だ。君と同じような経験をしたんだ」

「そ、そんな……」

 チャンが思わぬ展開に絶句する。

 コウ中将はしんみりとした口調で語りだした。

「ここには私の大事な仲間達が眠っている。それは皆、実の親や兄弟なんかよりもずっと親しい人間だった。だが、ある日偶然に私はこの施設を発見してしまった。あの時の衝撃は今でも忘れられんよ。一晩中、ここで泣いた。そして本気でここに火をつけようと思った。だが、同時にそんな無駄なことをしても仕方が無い事に気付いた」

 チャンが気の毒にといった表情で尋ねる。

「それで自らすすんでバベルに?」

「そうだ。組織に入って少しでも上に立てるように努力した。強烈なジレンマにもだえ苦しみながら、な」

 その考え方は一理ある。このような愚行を根絶やしにする為には組織のトップになって止めさせようというのだろう。

「そこまで考えていたのなら他に手段はなかったのか?」

 自分の問いに対してコウ中将は力なく首を振った。

「それも考えた。だが、私にはこれが一番の近道だったのだ……」

 コウ中将の話を聞きながら、ひょっとしたらサァラも同じような考えで動いているのではないかという気がした。だとしたら…。 

(尚更、インドに行かないとならんな……) 

 このことをクライアントに説明する必要がある。これまで集めてきたサァラに関わるナマの情報、それをありのままクライアントに伝えることで判断して貰う。それでこの依頼からは下りさせてもらう。

 同情するような表情を浮かべていたナミが尋ねる。

「ねえ。バベルという組織は何が目的なの?」

「私にも分からない。今の階級ではまだまだ下端だからな。未だ半分ぐらいしか知ることは出来ない」

 脳の標本が浮かぶ容器を眺めながら尋ねてみた。

「この馬鹿げた実験には何の意味があるんだ? そもそも成功したのか?」

 コウ中将はちらりと容器に視線を移して何か言い難そうに口を開く。

「成功したと聞いている。確か6つ目まで……」

 それを聞いてチャンが素っ頓狂な声をあげる。

「6つだって!?」

 ナミは恐る恐る尋ねる。

「嘘でしょ……それって、生きてるの?」

「ああ。そう聞いている。ここには無いがね」

 ため息が出た。

「ほぉ……完全にイカれていやがるな。まさか脳を繋げば繋ぐほど天才が作れるとでも?」

「それに近い。上の方が何を考えているかは分からないが『知を創る』という事のようだ」

 何ということだ。単純な発想というか妄想というか……彼等はブロックでも積み上げるように人間の脳を弄んでいるのか? 或いは『神』を創ろうとでもいうのだろうか…。

 我々は言葉を失った。何ともいえない重い空気が淀んでいる。

 コウ中将が首を押さえながら「私はこれで失礼する」と告げた。そして部屋を出て行こうとする。

 その背中に向かって声を掛けた。

「アンタはこれからどうするつもりだ? このままバベルに残って出世を待つのか」

 するとコウ中将は立ち止まってため息をついた。そして振り返る。

「そのつもりだ。他に道は無い」

「アンタはサァラをかっているようだが、あの子も同じ道を進んでいると考えて間違いないのか?」

「……それは分からん。だが、サァラ・タゴールには信念がある。私なんかよりも確たる信念が。彼女を見ているとそれだけの覚悟があるように思える。だから放っておいてやれ。とりあえずもうここに用は無いだろう。部下に送らせる。後は好きにしろ」

 そう言い残してコウ中将は部屋を出て行った。残された我々は何とも言えぬ後味の悪さを感じながら、次に何をすべきなのかを考えあぐねていた…。


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