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第4話 消えた旅客機

 2時間遅れの午後22時38分にG空港を離陸したC国航空のチャーター機241便は、その4時間13分後に消息を絶った。場所はS州の州都Fから北東に700kmの海上。

 発表では突如レーダーから消えてしまった、ということらしい。また、管制塔との通信記録に異常は無く、原因はまったく不明とのこと。それに離陸が遅れた原因は「整備の為」とだけしか公にされていないが、これも本当かどうか疑わしい。

「情報が錯綜しているわね。C国も焦ってるみたいよ。この3日間で大使が14回も国防省を訪れたみたいだし」

「大使が暇なのはどこの国も同じだな」

「もし通信系のトラブルでないならパイロット自らが連絡を遮断したとしか考えられないわね」

「しかもそのパイロットが離陸間際に変更されたとなれば結論はひとつだ」

「そうね。通信記録は私もチェックしてみたけど確かに異常は無かったわ」

 どこでどうやってそんなモノを入手したのかは知らないが、やはりこの女の背後には何かが潜んでいるような気がしてならない。

「ねえ。それでパウロ・イルニショスについて何か分かったの?」

 問題のパイロットは既に調べてある。

「叩けば幾らでも埃が出てくる奴だった。大体、空軍崩れのあんな奴がどうしてピンチ・ヒッターに指名されたのやら」

「でもそれも『バベル』の計画通りだったんでしょうね」

 その『バベル』というのが分からない。彼女は何を根拠にそう決め付けているのか? そもそもそういった組織が存在すること自体が自分には理解できない。 

 彼女はビールで軽く喉を潤してから催促する。

「出し惜しみしないで。持ってるんでしょ。空軍の極秘情報」

「フン。そちらのご立派な情報網に比べたらチンケなもんさ」

 さっきの船旅の際にジイサンの情報にはさっと目を通しておいた。結果は概ね予想通りだったが、それをこの女に披露して良いものか…。

「いいわ。じゃあこちらが先に出すわ。B国空軍がこっそり輸入したミサイルの資料よ」

そう言って彼女は1枚の紙を取り出してそれを寄越した。

それを受け取り、さっと目を通して確信した。

「輸入品目の明細だな。日付は3ヵ月前か……」

 彼女は試すような目つきでこっちを見ている。恐らくこちらの反応を探っているのだろう。

「これが何か分かる?」

「普通の武器じゃないな。恐らくは……チャフ・ミサイル(※1)」

「当たり。驚かないの?」

「どんなマジックでも必ずタネはあるものさ」

 数十年前のチャフといえばアルミ材をばら撒いて電磁波を乱反射させるものが主流だったが電磁波吸収剤が普及してからは持続効果が劇的に向上している。最新式ではミサイルを爆発させて空中散布する型まで開発されていると聞く。

「問題はB国空軍がこれを使ったという証拠が無いことよ」

「……それを俺が持っているとでも?」

「ええ。そう確信してるわ」

「参ったね。で、証拠を掴んでどうする? 空軍を脅すのか?」

「まさか。けど、根拠が無いと動けないのよ。無駄なコストは省きたい。誰だってそうでしょ」

「同感だな。無駄なコストと時間ほど邪悪なものは無い」 

 どうやら出し惜しみをしている場合では無さそうだ。目的が同じならしばらくは利用させて貰って方が得だと思われる。後は出し抜かれないよう気をつけることだ。

「戦闘機の航行記録は調べたのか?」

「勿論よ。この国の戦闘機の数なら大して手間じゃないわ」

「だが何も出てこなかっただろう?」

「そうね。記録を消したか最初から隠密行動だったのか……」

 やはりそれぐらいは調べていたようだ。が、この情報は知るまい。

「6ヵ月前にミラージュが4機、退役している。それも予定を繰上げてな」

「?!」

 彼女の表情が強張った。そして唇を噛む。

「それは盲点だったわ……でもそのミラージュって」

「半年あれば幾らでも改造できるさ。ステルス塗装ぐらいわけないだろう」

「そうね。密かに訓練を積むこともできるわね。でもどうしてそれに目をつけたの?」

「燃料の記録さ。航行記録と消費量が合わない」

「つまり燃料をどこかで使ってるってことね? 極秘裏に」

「そういうことだ」 

 彼女は何か考え事をしている。さて、次にどう出てくるか?

「ところでさっきの資料をデータで貰えるかい? ミサイルの明細だ」

「いいわよ」

 彼女の持っていたデータ、すなわちチャフ・ミサイルの明細や仕様をジイサンに転送する。後はジイサンにミサイルの性能を分析して貰えば裏付けは取れる。そうすれば次は消えた旅客機がどこに降りたかの推測だ。既に候補は幾つか挙げているが、どこから手をつけるべきか…。 

「さてと。少し休ませてもらうよ」

 一人になりたくてそう言うと彼女は腕組みしながら釘を刺してきた。

「抜け駆けは無しよ」

「束縛されるのは好きじゃないんだ」

「分かってるとは思うけどあなたはB国軍にマークされているわ。私は大丈夫だけど」

「……どうも解せないな。尾行することは考えなかったのか?」

「生憎だけどそこまで暇じゃないわ。あなたがどこまで真相に近付いているか分からなかったし。あなたの実力を疑ってるわけじゃないんだけど」

「フン。喜んでいいのかどうか微妙なコメントだな」

「とにかく探し物には最後まで付き合ってもらうわよ」

「いいだろう。アシは任せる。経費削減だ」

「了解。で、一応、方針は聞かせてもらえる? パートナーとして知っておきたいから」

「近隣のB国軍基地の情報を集めてくれ。できれば見取り図も」

「2時間頂戴。ちゃんと揃えるから」

「明日まででいいよ。それより今晩の予定は?」

「どういう意味?」

「パートナーとして知っておきたいからな。色々と」

 冗談半分でそう言うと彼女はにこりともせずに背中を向けた。

「調べたければご自由にどうぞ」

 随分、軽く流されてしまったな。やれやれ。冗談の通じない女は苦手だ。

とはいえ単独でB国軍を相手にするのは大変だ。であれば紳士協定を結ぶのも悪くはない。どこまでこの女を信用して良いかはともかく、行方不明の旅客機を発見するまでは…。


※1 チャフ・ミサイル… レーダーに探知されないように電磁波を吸収する素材をばら撒くミサイル。



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