6.3
王と女神が夢中になっている間、部屋には闇が入り込んでくるようになり…
イオは指先を使い、部屋に備え付けてある蝋燭に火を灯した。
「ふぅ」
部屋が蝋燭の炎で明るくなってから二時間程経過して、座っていても疲れてきたのか、アヤの口から深い息が漏れると…
ゴホン。
周囲に気を配れなかったことに気付き慌てた王が咳払いをして、アヤに一礼をした。
「ありがとな」
王とは言え、神に仕える女神の部屋に乱入・拉致をするような行為をしたことに対しての謝罪も含まれているような声色を聞いて、アヤはふわりと笑った。
「ああ。また来い」
疲れてくると、自然に普段の女性口調が出てしまう為、アヤは台詞を脳内で一度言った後、口にした。
もし…女性だと告げたのなら、目の前の王はどんな反応をするのかと想像すると、アヤの唇は自然に緩いカーブを描いてしまう。
それに気付かないふりをして、王は手にした袋に出ていた分の種も収めて
「これ。早速撒いて来るなっ」
力強く宣言した。
「声…」
室内で使うような声量ではないと、アヤが困ったような表情になり、更に心配そうに手を伸ばそうとすると…
「ちゃんと、その能力のある奴に頼むって」
王は手を前に差し出し、心配ないとポーズでも告げる。
その打てば響くような反応は、アヤにとって心地良いものだった。
「そうか」
自分の提案を議会にかけることもなく、民の為とすぐに行動する王の思いに対して、何か告げてしまいそうになるアヤは短く返事をした…
ばたん。
風の様な速さで現れて、多くの景色を女神に与えた王の姿が部屋から消えた。
力の満ち溢れる存在が空間から失われると、女神の表情に一瞬…影が走る。
「アヤ?」
少しの変化も見逃さないイオがすぐに声を掛けると…
「何でもない」
フルフルと小さく首を振って、自分の中に渦巻く分からない感情にアヤはそっと蓋をした。
「無理しなくても良いですからね?」
「ユルシカさんっ」
本人よりも、女神の心境変化に気付きやすい二人からの心配そうな声色を聞いて、アヤは小さく笑みを零した。
「良いの。本当は…自分の未来に対して、抵抗する気持ちが少しだけ…あったの。もっと多くのモノを知りたい。やりたい事も…。でも、あの王に全てを託すのも、良いと思えるようになったの。一晩で私を変えるなんて…王は恐ろしいね。くすくす」
通常より、優しく甘い声色で、自分の終わりを告げるアヤに対して、二人はこれ以上何を言っても無駄だと視線で話し合って、ベッドの支度をし始めた。
「それでは、少し休みますか?」
「昼に呼びに来てくれる?」
「はい。アヤ」
そっと、疲れた体を労る様に、イオが体を持ち上げ、Kが用意した布団に寝かされると、アヤはそっと瞳を閉じた。
---未来の事を感じさせない。
穏やかに戻った表情は、誰も作る事の出来ない最高芸術作品でも適わない美しさだった…。