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5.

「ジンより早いモノがある…」

「ん?」

「別に…」

 

女神は馬上、王の腕の中で呟いた。

聞きやすい声量にならないのは、馬の駆ける速さで、唇を大きく開く事が出来ないだけではなく…自分を惹き寄せる存在に、内容を聞かれるのが何故か羞恥に感じてしまったからだった。

 

「アヤ。痛くないか?」

「ああ」

「もう少しだから。我慢してくれ」

「分かった」

 

言葉を短くしなければ、舌先を噛んでしまいそうな衝撃を体に感じながらも、痛みよりもアヤの体と心には新たなリズムが生まれていた。

 

___コレは…何?

 

繰り返し心に尋ねても、多くの先読みをしている女神にも答えが掴めなかった。

 

月夜の晩。

窓から見る景色とは違う木々。花々。地面。そして空。

全て、目を配りたくなる程美しかった。

それでも、最後に視線を向けてしまうのは、不本意に自分を振り回す王だった。

 


 

「おしっ。此処だ」

「…此処は…」

「国が一望出来る場所だ。そして。月も見える。勿論。アヤの居た神殿もな」

「…本当だな」

 

高い丘。

決して小さくはない国が一望出来る場所で、反対側の山の上には自分がいた神殿。

外側から見るのは数回でも、分かる独特な造りだった。

 

「綺麗だな」

「ああ。俺は、この国が好きだ」

「そうだろうな」

「分かるか?」

「お前の様な者が王に留まっている位だ。魅力的と感じているのだろう」

「棘があるなぁ」

「くすっ。分かったか?」

「酷いな」

 

女神のクスクスと言う笑いに大きな笑いが被さり、普段の女神なら確実に『煩い』と眉間に皺を作る所。

今は、自然にその笑いを体に受け止めていた。

 

「ジンは、不思議だ」

「ん?」

「私を女神として扱わない」

「扱ってるつもりだぞ?女神も王も民も皆。人だ。ただ…この場所に連れて来た特別な人はアヤだけだ」

「…っっ。補佐も居るだろう」

「違う。あいつは親友だ。俺は、アヤを見た時。天から降りて来たと思った」

「…」

 

馬から降りると、ジンは大きめの岩にアヤを座らせた。

そして、横に立ち街に視線を戻す。

 

「女神も人だと今、言ったが…。アヤは、存在しているだけで凄い力を感じる。魅力も。今まで、他の人に対して、此処まで思ったことは無い」

「…私は男だぞ?」

「関係ねぇよ」

「告白されているみたいだな」

「………そうかもしれない」

「ジ……ジンっっ」

「すぐに飲み込まなくて良い。ただ。俺にとってアヤは特別だって、分かってもらいたかっただけなんだよ」

「……ああ」

 

その言葉が嘘でない事は、ピンと立った姿勢や声色で分かり…アヤの心は軋む程に早く動き始めた。

 

___もしかしたら。私も…なのかもしれない。

 

女神が思ってはいけないモノをアヤは抱え始めていた。

 

「私が護ろう。この国も。ジンも」

「アヤ?」

「私はこの国の女神だ。腕と足はお前には適わない。だが、知識。先読みでは私に適う者はいないだろう」

「アヤは俺が護る。この国も。女神も。全部。それが出来ないなら、俺は俺で無くなるからな」

「…そう…か。ありがとう」

 

女神はふわりと微笑んだ。

その微笑みは、王が生まれてから、今までの間見たモノの中で一番…差を確かめる事も無い程、美しいものだった。

 

 

___時は。満ちる。

祭りの重要な時が来る。

その時。

今過ごした時間が二人の運命を決める…。


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