はじまり
女神*アヤ・ユルシカ
王*ジン・トランテラ
女神付(召喚士)*イオ・アメイン
王補佐*アキ・ダチーユ
使役妖精*K
「生け贄予定の女神は豪快な王に求婚される」
〜貴方と全てを護る為〜
1.
周囲の国々から優秀な人材が自分の力を磨き高める場所として選ばれることが多い女神信仰が残る国は、力強い王の元で平和な時間が流れていた。
普段は各々が自分の才能を伸ばすことだけを優先して生活している為、仲間同士組んで何かをすることが少ない国風には珍しく…現在、落ち着かない状態が続いていた。
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十年ごとに開催されて、それが三回重なった三十年に一度の時は通常の祭りよりも大きなものにする決まりがあった。
今年。
その祭りはまた同じだけの期間、繁栄を願いながら、一年の間続く。
そして、開催してから一ヶ月の月日が流れた時。
最初の大きな式典が行われることになっていた。
___国の宝。
女神の祈りの儀式「夢の香」が行われる日。
それが…今日なのだった。
数日雲が薄く覆っていた天気で、今朝も太陽の光は弱く地上に届いていた。
『祭典なのに』
年齢を重ねた老人達は、自分たちが見てきた祭りと違った雰囲気に震えて、
不安な声も囁かれ始めていた…
そして、王宮近くの山に作られた女神の居る神殿内、謁見の間で彼女を待つ王も溜息を作り出す。
「はぁ…」
「溜息を吐きながらも、緩んだ顔。どうにかならないのか?纏まりがない」
「無理だって。祭りだぞ?楽しい気分が止められねぇ」
「お前…」
「だが…折角の祭りなのに、何でこう…カラッと晴れねぇんだよ!」
「仕方が無いだろう。この時期。毎年こうだ」
「でもよ」
王と補佐の二人か居ない状況、通常より砕け過ぎた幼馴染の態度で会話をしていた。
王。
ジン・トランテラは、この国を任されて5年目。
前国王が「世界の強い奴と力試しも良いと思うだろう?」
その一言で王座を息子に譲り、旅に出てしまった為に若くして、王になってしまった。
それでも、謀反・暗殺等が起こらず今日まで来たのは…。
生まれながらの『人を魅了する』雰囲気。
力強く『人を引き寄せる』勢い。
太陽を練り固めた様な圧倒的な存在感を持つ王と。
暗黒の魔法が使えるのではないかと噂される黒いオーラを纏う右腕のアキ・ダチーユが王の補佐が居た為だった。
補佐のダチーユは、王の人柄・その人間性が穢れない様、裏で多くの仕事や書類を片付けていた。
勿論。
隠れて磨いている力技を使って押さえつける事もしていた。
全ては、国と王の為。
尊敬する王の為に多くを片付ける事をしつつも、自由過ぎる動きを親友がすれば、軽い頭痛を感じるのか、眼鏡のフレームを神経質に押し上げる仕草をする。
今も。
その癖を作り出しながら、朝の会議が終わった後の今日一日の予定を頭の中で確認していた。
___コンコンコンコン。
「女神様がいらっしゃいました」
王が連れてきた侍女の声がすると、王は待ちかねたと立ち上がる。
補佐も扉の前まで移動すると…ゆっくりと開かれる。
席に座ったまま待つ。
それをしないのが…この王。
「……随分と…アレだな」
「嫌な感じの女神?だな」
侍女が頭を下げ、一歩横にずれると、背の高い男性が現れた。
祭りがなければ、王と女神が会う機会も無く、初対面で…
女神の性別、外見の指定は無いとしても…王と補佐の抱いていたイメージとは大きく外れていた。
硬質の銀の髪。
微笑を作り出していても、冷ややかな紫の瞳。
どう見ても、男性で…神秘的な感じは受けても
『女神』
その言葉とは掛け離れている。
二人が素直に言葉を作り出そうとした時。
男は頭をゆっくりと下げた。
「女神付のイオ・アメインと申します」
くすっ。
相手が王と分かっていても、自分が『女神』と間違われていると気付き
笑いを零した。
「無礼だな」
ダチーユがすぐにそれに反応した。
完全に相手を挑発する声で。
ゆっくりと頭を上げながら、アメインは、仮面を貼り付けた様な微笑み付きで、その嫌味をかわす。
「女神は王とは別位置に居る筈です。無礼の無い様に」
「お前」
「ダチーユっ」
何故か。
補佐の動きを王が引き止めた。
「イオ。入って良いのか?それとも、帰ろうか?」
困った様な声が、アメインの後ろから掛かる。
鈴を鳴らす様な。
それでいて、鉄をも突き通す様な張りがあった。
「すみません。アヤ」
「別に構わない。ただ。入ってはダメなのか?」
「はい。武器を持ってはいない様ですからどうぞ」
「なら入る」
「はい。アヤ」
後ろに振り返る瞬間のアメインの表情は、王達の居る前を向いていた時とは異なる表情。
トランテラとダチーユは『胡散臭い』と視線で話し合う。
そして。
アメインが右に動き。
白いローブを身に纏った女神が一歩部屋に踏み入れた時。
贅沢に大きく作られた窓から、強い太陽の光が差し込んできた。
まるで女神を祝福する様に。
細い絹糸の髪。
それは国にある花々で染色しても出せない桃花の色。
肌は今年降り積もった雪よりも白く繊細。
唇は全ての果実よりも熟れて濡れていた。
国民全員から探しても、女神程の美しさは無かった……。
「_____っ」
「……」
「この国の宝珠女神。アヤ・ユルシカです」
「貴方が王か。よろしく」
アメインの紹介が聞こえているのか、いないのか、補佐は、その繊細な美しさに瞳を奪われ。
王は、思いのまま手を伸ばした。
___勿論。すぐに女神付に叩かれて阻止される。
「…いっ」
「無礼な」
「お前。王相手に何を」
「先程言った筈です。この方は女神なのですから、王とは別に尊きお方。触れる事は許されません」
イオが鋭い声色で責めると…
「イオ」
女神が止めに入った。
「すみません。アヤ」
「全く。この国の王は、無遠慮過ぎる」
機嫌悪い気持ちを隠さずに表情に出す女神を見て、ダチーユはボソリと呟いた。
「女神は見た目と中身は違うな。くくっ」
補佐はすぐに女神の繊細そうな外見とは違い、男前にも思える内面に気付き、噛みつかれても面倒だと、それ以上容姿・行動に触れる事や視線を向けるのを止めた。
産まれてから煌びやかな物に囲まれていた筈でも、王は初めて見た美しい宝物の様に、女神に夢中になっていった。
___祭りは始まったばかり……。
本当は、召喚士と使役妖精のお話しを先に投稿予定でしたが、
こちらを先にした方が分かりやすいかも…と、
こちらを先にしました。