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第四十八話 翼破⑤

 第九十九階層に辿り着くまでにもたくさんの試練が存在する。

 基本的にはパーティーの人数が多い方が安全性は増すけど、それは統率が取れている場合だ。


 クロノスさんが募集した数十人は全員女性で、それなりに経験のある一流の冒険者も混じっているけど全体としてはそこまで水準は高くない。


 そしてクロノスさんに彼女たちを引っ張る計画がないのが良くない。


 迷宮潜(ラビリンス・ダイブ)を行うにあたっては、数多の転送陣の配置を頭に入れておく必要がある。

 迷宮(ラビリンス)の階層間の移動はすべて転送陣によって行われるからだ。


 この転送陣は各階層に一つとは限らず、その位置もまちまち。

 さらに言えば必ず次の階層に繋がっているかもわからず、階層を跨ぐ転送陣も多々ある。


 一つだけ確かなことは最前線にあたる階層を跨ぐことは絶対にないという経験則だけであり、その最前線の階層主(ボス)が倒されることで、それより前の階層に新たな転送陣が生まれることもある。


 ゆえに、最前線に向かうには最も負担が少なく時間もかからない転送陣間の道を知っている必要がある。


夜蜻蛉(ナキリベラ)】のような大型のパーティーは転送陣も道もすべて網羅し整備しているらしく、一部を秘匿して迷宮潜(ラビリンス・ダイブ)を有利に進めているなんて話も聞く。


 【竜の翼(ドラハンフルーグ)】にそのような優位性(アドバンテージ)はない。

 だから周知の方法で第九十八階層まで行き、それから転送陣まで向かわねばならないことになる。


 そしてそうなれば、突破しなければならない難所はいくらでもある。


 たとえば第六十五階層の岩が転がり続ける荒斜面、第八十七階層の水棲モンスターに溢れた川、それから第九十階層の灼熱の洞穴。

 どれもノウハウがなければ厳しい。大人数となればなおさら。


 極力戦闘を避けても第九十八階層に辿り着くのは大変だった。

 クロノスさんは最前線の攻略についてしか考えていなかったようなので、私と参加してくれた他の冒険者さんで相談してなんとか進んでいった。






 多少は手こずったが、なんとか最前線まで来れた。


 あいつは毎度毎度耐熱がどうの迂回経路がどうの言ってうるさかったが、やはり必要なかったんだ。


 俺たちなら心一つで最前線に来られる。それを証明できた。


 脱落者は……半分くらいか。

 まあついてこられなかった子は鍛えてもらって次にまた挑戦してもらえればいい。

 怪我なんかをしていたら治療費を出してあげてもいいだろう。懐の深いリーダーとはそうあるべきだ。


 第九十九階層。


 ギルドからの情報はほとんどない。

 それは俺たちが一番初めにここを見るということ。


「帰ってきたぞ……! ここが最前線!」


 いい。この未知なる階層をこれから踏破していく感じ!


  最前線はこうでなきゃいけない。


 目に映るのは果てがないような森と、いっぱいに広がった夜空。

 いつもの通路とか洞窟みたいな感じじゃなくて、地上と同じように広い空間にそのまま森がある感じ。

 端は見えないし、目をつぶって連れて来られたら迷宮(ラビリンス)とはわからないかもしれない。

 湿度も温度も相当高い。鎧を着ているのが嫌になるくらいだ。


 みんなもすっかり参っている。


 ここはリーダーの俺が鼓舞しなければ。


「みんな!」


 パン、と手を鳴らす。


「ここからが本番だ! 必要なのは信頼関係! お互い声出して、しっかり連携していこう!」


 よし。


 すると、ソフィーアが手を挙げた。


「あの、クロノスさん」


「お、何かな?」


「みなさん疲労していますし、少し休息を取りませんか?」


「うーん、そうかな? ……みんな! 疲れてる!?」


 周りを見渡す。


 誰も頷いてない。


「ソフィーアは心配しすぎだって」


「クロノスさんは体力がありますから……こういう場合では言い出しにくいと思いますし」


 ふむ。


 ソフィーアは言うときははっきり言ってくれるからやりやすいけど、心配性なのが目立つな。

 会計とかいろんな手続きも任せてるし慎重なのは悪いことじゃないけど……


「大丈夫だ。そういうのは連携でカバーしよう! いざとなれば俺がみんなを守るよ!」


「ちょっと待ってくんな、旦那」


 ソフィーアの隣にいた女戦士が、手を挙げた。


 確か名前はレベッカだったと思う。

 背も高くてスタイルも良い姉御肌って感じの女性だ。近接要員として俺と一緒に剣で戦ってくれそうだから採用した。


「どうした? レベッカ」


「その連携、ってのはどうするんだい? 最前線なんだしいい加減伝達魔術を使わないと。戦闘を避けてここまできたってのにこの体たらくじゃ」


「うちではそういうのはやってないな。互いに声をかけあってやってきたし」


「……は?」


 ん?


 伝達魔術なんぞなくていいだろう。

 今までそうやってうまくやってきたし。


「あの、レベッカさん、うちはもともと少人数のパーティーなので、話すくらいで事足りてまして」


「いや知らないよそんなこと。今は大所帯じゃないか」


 どうにも雰囲気が良くないな。


 聞いたところ最前線で階層主(ボス)とやりあったことのある経験があるのは俺たちしかいないみたいだし、ついてきてるだけじゃ不安になることも仕方ないけど。


「なあ旦那、こっから先に行く算段は立ってるのかい? 未知なのはわかってるけど、さすがにもうちょっとしっかりしてもらわないと」


 レベッカは不満そうな顔を向けてくる。


「報酬が不満か? 十分払ってると思うけど、それなら」


「報酬の話じゃないよ。作戦の話だ」


 ああ、作戦ね。


「作戦なら大丈夫さ! とびっきりのを考えてきてある!」


 そうだな、俺としたことが勿体ぶってしまった。

 ギルドの情報からちゃんとどう進んでいくかを考えていたのだ。

 みんなを驚かせたくて隠してしまったから、そりゃあじれったくもなる。



「この森を焼き払うのさ!」



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― 新着の感想 ―
[一言] 前にダンジョンの中で炎系魔法使う危険性ちゃんと説明した上でのこの展開www 頭の悪さが際立つわーww
[良い点] おぉそうか、そいつは迷案だな。 生木を焼けるだけの火力がどれだけ必要か野営の一つでも他人任せにせず、まともに一度でもやってれば絶対に思いつかない手段だ。魔法は自分の専門外にも関わらず提案す…
[一言] 半分も脱落したんだ。 しかも置いてきたのかー。 ソフィーアは、このパーティーの危うさを知っているのに脱退せずについて行ったのは凄いな。 怖くないのか、、、。
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