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第四十六話 一員

 膨らんだ道に大型が三体。

 二体はワイバーン、一体は獅子の顔を持つ合成獣(キメラ)だ。


 厄介なのは二体のワイバーンだろう。

 片方は現在も我々を品定めするように高く飛んでおり、もう一体はどのような攻撃でも避けられるよう、そして回避をした次の瞬間には我々に攻撃を加えられるように脚に力を溜めている。


 陣を先に組んで相対したので、膠着状態を作ることには成功した。

 盾部隊はどっしりと構えて我々を守ってくれており、この人数ならヴィム少年の強化(バフ)がなくてもしばらくは保つ保証ができる。


『こちらカミラ。ハイデマリー、行けるか?』


『こちらハイデマリー。行けます』


『よし、後衛部隊、撃て!』



「「「「「『銀紙吹雪ドュピー・シュプリガン』」」」」」



 氷の粉塵を前方向に一気に拡散させる。

 モンスターどもは防御の体勢をとる。

 本来なら次の瞬間に反撃が来るはずだ。


 しかし来ない。

 モンスターどもは肩透かしを食らって混乱している。

 これは攻撃ではなく目くらましで、ワイバーンの感覚器官を若干狂わせるように光を乱反射させている。


『二撃目、上空のワイバーンに向かって撃て!』


 後衛部隊に準備を促す。頭上に巨大の氷の矢が顕現し、雷を纏い始める。



「「「「「『氷雷槍(ゲビター・スピア)』」」」」」



 うなりを上げて槍が射出される。

 ワイバーンは避けるまもなく被弾。大きく高度を下げる。


『前衛部隊、直進! できるだけやつらの気を引け!』


 やつらの混乱に乗じて盾部隊を中心に接近する。


 さあ、準備は整った。


『ヴィム少年、行けるか』





『はい』


 カミラさんからの伝達に応える。


 彼女の提案により、この作戦の仕上げは俺が担当することになった。


 責任重大だ。


 今、俺がいる小部隊は三体の大型モンスターの背後にいる。

 これは本隊を囮とした豪華な陽動作戦。

 多少無茶をしてでも成功させなければならない。



「移行:『傀儡師(ぺプンシュピーラー)』」



 視界がゆっくりになった。


 今ならいける。

 視界全体で、三体の動きを同時に捉える。


 大きく高度を下げたワイバーンは体勢を立て直そうと強く羽ばたいている。


 地上にいる合成獣(キメラ)とワイバーンは前衛部隊に対応すべく右往左往していて、互いの場所取りに苦心しているらしいことが窺える。


 うん。


 手の震えが来た。いけそうだ。



「『瞬間増強(パンプアップ)二十倍がけ(ツァイリーマール)』」



 ──まったく、カミラさんも無茶なことを要求してくる。


 この前のあれは自分でもよくやったと思うが、出来すぎだった。

 今だって低確率の綱渡りの途中。

 一秒後には死んでいてもおかしくない。本来なら俺は応じるべきじゃなかった。


 うん?


 じゃあ俺はなぜ応じた? できると思ってるのか?


 あれ?


 いやいや、迷うところじゃない。

 評価してもらった分、奇跡でもなんでもいいから仕事を全うする。


 それだけだ。


 うん、今考えることじゃない。


 まず、大きく跳ぶ。跳ぶというより飛ぶ気分。


 実際は空中で加速などできるわけもないが、ぐんぐん加速しているような気分で上空のワイバーンに接近。


 山刀(マチェット)を居合で抜いて首を斬り裂く。人間でいう頸動脈の部分だ。


 そして残った勢いで背中を蹴ってもう一体のワイバーンの方に落下方向を調整する。

 反作用で俺も、今度は合成獣(キメラ)の首元に接近。

 みんなが引き付けてくれているのでがら空きだった。

 同じように首元を横から二、三回斬り付ける。


 左を見る。

 さっきのワイバーンが落下して、地上にいる方のワイバーンの視界を防いでいた。

 予定通り、俺は死角にいることになる。


 右脚で横に蹴って左に大きく跳ぶ。

 次の着地は両足で、今度は右に跳ぶ準備。

 ワイバーンからすれば、仲間が落ちてきたのと同時に何かに背後に回り込まれた格好になる。


 あとはやりたい放題。

 用意してきたもう一本の山刀(マチェット)を抜く。

 今なら右手も左手も両方利き手だ。

 単純に二倍斬り裂ける。

 右で斬ったら一回転する間に左で斬り直し、左で弾かれたらその弾かれた勢いを右で利用する。


 剣撃でワイバーンの体をなぞるように、脚から首へと連続で斬って登っていく。


 最後には勢い余って、首を斬り付けるだけのつもりが、斬り落とすところまでいった。


「──ふう」


 着地して、強化(バフ)を解く。


 疲労感が押し寄せてくると共に景色に速度が戻って、ズシンと音がした。

 ワイバーンの首が落ちたのだ。


 残りの二体の方にも目をやる。前衛部隊の人たちが念の為止めをさしてくれていた。


 大型モンスターすべての動きが止まって、一瞬の沈黙がきた。


 遅れて、大きな歓声がワッと広がった。


 流れるように担ぎ上げられて、もみくちゃにされた。悪い気分はしなかった。





 転送陣をいくつか経て冒険者ギルドに戻ると、いつもよりたくさんの冒険者たちが目に入った。


 今、冒険者たちは盛り上がるに盛り上がっており、その活気は俺がフィールブロンに来てから見たことがないくらいだった。


 そして俺たち【夜蜻蛉(ナキリベラ)】が帰還したのを見ると、大きな歓声が上がった。


 人ごみに揉まれながら、みんな手を振って応えている。

 俺も似たようにすればいいのか?

 とにかくみんなの動きに身を任せよう。


 そうしていると、いくつもの声が聞こえてきた。


 ──あれが、ヴィム=シュトラウスか?


 ──そうだよ。階層主(ボス)を一人で倒したっていう。


 おお、変な気分だ。


 ──若いと聞いてはいたが、良い体格をしているな


 ──違う、それはアーベルってやつだ


 ──は?


 ──あの細くて暗い感じの彼


 ……こけそうになった。


 でも俺の方にたくさんの視線が集まっているのは確からしい。

 しかも何か変な視線も感じる。何人かが妙な、品定めをするような視線で見ている。


「ヴィム少年、ちょっとこっちへ」


「……? なんでしょう?」


 呼ばれたので、カミラさんの方へ行く。


「ああ、特に用があるわけではなくてな。団長の目の前で団員を引き抜こうとする輩もおらんだろう」


 ん?


 妙な視線が消えたのがわかった。


 なるほど、勧誘防止のために守ってくれているわけか。


 おお、なんだかむず痒いぞ。

 俺、そういう対象になる人間なのか。

 カミラさんに気苦労をかけるのは申し訳ないけどなんだか嬉しいかもしれない。



 ギルドを出るともう夜だった。



 【夜蜻蛉(ナキリベラ)】は同じ歩調でギルドを出て、人に溢れる夜のフィールブロンを闊歩していく。


 見上げたカミラさんの顔はとても凛々しく、なんでもない顔をしてみんなを率いていた。


 性別を超えて男らしい。もう惚れそう。


 仮団員から正式な団員になって、景色が変わる。


 俺はこの凄い人たちの一員なのか、と。

 俺は正式な団員として、この人たちと一緒に成果を上げたのだ。誇らしい気分だった。


 隣のマルクさんと目が合って、マルクさんはニカッと笑った。


「やったな。すげえよ」


 拳を突き出される。


 ……?


「ほれ」


 ああ、そういうやつか。


 俺も拳を出して、合わせる。


「これからよろしくな、ヴィムさん」


「……はい!」


 今までとは違う、弾けるような達成感が込みあがる。

 俺はこの人たちの仲間になったんだと実感して、お墨付きをもらったような気分になる。


 これは下手なことはできないな、と身を引き締めた。



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― 新着の感想 ―
もう傀儡使わんでくれ…
[一言] さて、いつまで自分を誤魔化せるか。
[良い点] ゆっくり歯車が噛み合ってる気がする ギアの噛み合ってない歯車が……
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