↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/199

第二十三話 天井

 団長が出るぞ、と聞こえた。戦場が色めき立った。


 カミラさんは小走りだったが、存在感ゆえか、まるで悠然と歩いているかのようだった。


 女性にしては、というよりもはや人類として非常に大きなその体躯。

 整った顔立ちに揺れる銀髪。

 神々しさが人間の枠に収まりきらず、もはや崇拝されるべき彫像のようですらあった。


 彼女の剣、大首落としの刀身はすでに大剣ほどの大きさに膨らんでいた。

 俺も精一杯の強化(バフ)をかけているが、そんなものは一助になっているかすらわからない。


 きっとこの一撃で決めるつもりだ。


 階層主(ボス)という存在は狡猾で慎重であり、往々にして奥の手を隠している。

 できればそれを見る前に一撃で倒してしまうことが望ましい。


 剣の魔術、即ち切断する力には万物に有効な強さがある。

 生き物というのは、体の中心を切断されれば基本的に絶命する。

 下等な動物であっても大きな損傷は避けられない。


 みんなの力によって押している今、必殺の一撃を叩き込むことが求められている。



◇



 付与済み(エンチャンテッド)です、という言葉を、もう何度聞いたかわからない。


 ヴィム少年の強化(バフ)は回数を重ねるたびに洗練され、私の体に染み込んでいた。


 もはや比喩ではない。

 私は彼の強化(バフ)によって実現する動きを、改めて生身で再現することを繰り返した。


 私は長らく天井にぶつかっていた。

 いくら鍛えても越えられない能力の天井。

 筋力の向上はもはや望めず、魔術も極めた自負があった。


 そしてその自負ゆえに限界を感じてしまっていた。

 【夜蜻蛉(ナキリベラ)】は素晴らしいパーティーだから、私はそれでも構わないと自分に言い聞かせた。

 現状の力を維持することしかできないなら、指揮と指導に尽力すればいいと。


 しかしそれは絶望の裏返しだった。


 戦士としての私は、割り切ったことによって死んでしまった。


 その凝り固まった状況を突然打破したのはあの強化(バフ)だ。


 借り物の力ではあったが、私は天井の上にある景色を見ることができた。

 彼の力さえあればいつでもそこへ行って確認できた。


 さっきまでの自分の体感が、明確な目標として目の前に立ちはだかる。

 これほどまでに鮮烈な道しるべがあるだろうか。


 たった数ヶ月で私は数枚の壁を破った。


 かつてない速度だった。


 今になって思う。

 君との初めての迷宮潜(ラビリンス・ダイブ)で通り道(パス)が繋がった瞬間。


 あの瞬間に感じた高揚は、停滞を打ち破る(ブレイクスルー)の確かな予感だった。


 ヴィム少年、君は知らないだろう。知る由もない。


 私がどれだけ君に感謝しているか。言葉にして伝えようとしたけども、伝えきれる大きさを越えている。


 戦士としての私は、あのとき蘇ったのだ。



「『応えろ、大首落とし』」



 相棒が腕の神経から私に高揚を伝えてくれる。

 言霊が詠唱になったらしい。

 相棒は自ら進んで制御下に入り、腕の神経を通じて私に高揚を伝えてくれる。


 幸いなことにここには“空”がある。

 相棒を制限しなくていい、跳ぶ高さを考えなくていい。

 できるだけ高く跳んで、目一杯巨大化させて、思い切り下で叩きつけることができる。


 調子がいい。体が軽い。よく動く。


 敵は階層主(ボス)。一撃で仕留めないと何が起きるかわからない。


 でもそんなことを考えるより前に、私は一人の戦士として、燃えるような闘争心に身を焦がしていた。


『総員、退避しろ! デカいのを叩き込む!』


 小走りから助走に切り替える。

 歩数を合わせて、最高速度に乗るのを待つ。


 柄を握った右腕と地面を蹴る左脚が合うと確信した次の瞬間、私は空に浮いていた。


 まるで強化(バフ)に導かれているようだった。


 考えるより先に振り上げた柄(つか)に左腕が添えられる。


 背屈した全身は弛緩しきって、エネルギーを最大まで貯める。


 相棒は応えてくれている。

 倍で区切らなくても、滑らかに最適な瞬間を選んで巨大化してくれるに違いない。



「『巨人狩り』」



 剣尖が鞭よりも速くしなって、頂点に達した瞬間、相棒はかつてないほど巨大化した。


 もはや私にもどこまで伸びているかわからない。


 どこまで届いてしまうかもわからない。


 ただ確かなのは、この一撃は階層主(ボス)を叩き斬るのに十分であるということと、今の私ならどんな得物だって振り切れるということ。


 全霊を込めた一撃を、余すところなく叩き込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
怖いなあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。