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第二十四話 列なり馬車

 この街に来た理由は、フィールブロンへの直通便、列なり馬車があるからだ。


 通称、奴隷列車(スラーブンズーク)


 その劣悪な乗り心地と、そんな乗り物にしか乗れない貧乏を揶揄する蔑称だ。だけど冒険者をやろうなんて荒くれ者には、かえって良い響きになったりするらしい。


 迷宮(ラビリンス)の恩恵にあずかろうとするのは当然冒険者だけじゃない。むしろ商人の方が最終的には儲けているのでは、という具合。


 商人は金山の発見を聞いて、金を見つけに行こうとは思わない。用意するのはバケツとスコップ。夢見る労働者たちを斡旋し、道具を売りつける。それが一番儲かると知っている。


 私に言わせれば冒険もせずに利益を掠め取ろうなんて無礼千万だが、利害が一致しているならそれでいい。


 夜明け前。


 十分に英気を養った私たちが宿を出ると、きっと同じ目的であろう大人たち、若者たちが各々外に出ていた。


 多くは私たちと似たり寄ったりで、最低限の荷物を抱えている。しかし中には腕っぷしに自信のありそうな大男だったり、育ちが良さそうな格好をした魔術師のような女の人もいる。


 もはやいっぱしの冒険者のように身なりを整えて喋っている男女の集団がいた。

 風とか人とか、流れ行く物の中で悠然と肩を切って歩くくらいの自信を見せている。


 もしかすると迷宮潜(ラビリンス・ダイブ)経験者なのだろうか? と思う風体。そう思わせたいだけかもしれないけど。


「……どこに隠れてたんだ、ってくらいだね」


 そんな人たちが倍々に増えていくのである。昨日の夜の閑散とした感じとは打って変わって賑やかになって、景観が変わる。


 列なり馬車の出発を見越してか、道の両側に出店も出ている。食べ物だけじゃなくて、衣服や小道具、なんなら武器や防具だって叩き売られている。


 まるで、始まりの街のようじゃないか。


「ヴィム、いよいよ赴くぜ、冒険の地へ」


「……はい」



 ◆



 街の停留所に集まった冒険者候補たちは、野次馬みたいにごった返していた。その中でも律儀に馬車が通る道を開けているのがいじらしい。


 さっきまで肩で風を切っていた連中も、人込みの中で埋没していけばみんな同じくらいしょうもなかった。


 ──なんだ、全員、子供と変わんねえよ。


 そういう私たちも相当出遅れていたけども。



 軋む音、車輪のそれが聞こえたあとに、馬車の音だとわかった。


 人混みの向こうで歓声が上がって、ぞろぞろと動き始めた。


 抵抗とかそういう話じゃない大勢の圧に押されて、私たちはすり潰されるように揉まれた。

 前後左右がすぐにわからなくなる。


 動く方向が前? じゃああいつがいたのは?


「おいヴィム! いるか!?」


「あっ、います……」


 ガチャガチャ擦れる武器だとか、人を挟んで向こう側、あの陰気臭い顔がちらりと見えた。人に揉まれに揉まれて今にも見失いそうだ。


「ほら!」


 ヴィムの手を引っ掴んで、無理やりグイッと寄せる。


「痛い痛い痛い!」


 半ば抱きかかえるように再合流である。


「いやぁ! いいねぇこの人混みは! 私たちみてえなのが多数派だぜ!」


「……さすがに子供は僕たちだけでは」


「最年少さ! さあ手を離すなよ!」


 流れでこけないよう、二人で踏ん張ってゆっくり進んでいく。


「六号車は満杯でーぇす!」


 慣れた感じのべらんめぇな声が聞こえてきた。

 確か列なり馬車の定員は三百人だったか? この街で満員になることもあるらしいし、でも私たちの並び順からして乗れることは間違いないはず。


 耐えるに耐えて出た、最前列。


 怒号に負けないくらい馬の鼻息が唸る。


 今までの旅路の最高潮に行くと言わんばかりの大迫力だ。


 右に向いても左に向いても、多頭立ての馬車が大量の荷台を視界いっぱいに引いている。荷台は大の大人が丸々隠れるくらい深くて、野菜を運ぶようなそれとは役目を異にする。


 まるでどんなに激しく揺らしても、中身が零れないために特化したような。


 そして、遠近感でわからなくなっていたけど、この馬、荷台に合わせてかなり大きい。普通の馬とは全然違う。これも迷宮(ラビリンス)に関係してるのかってくらい。いったい何馬力あるんだろう?


 何分も経たずに、私たちが乗り込む番が来た。


「嬢ちゃんたち、乗り違えはねえな?」


 恰幅が良くて、ここにいる冒険者志望の人間とは一風変わった雰囲気の乗務員の男性──元冒険者だろうか、が、私たちの目をじっと見据えた。


 後ろで早くしろ早くしろ、という圧がかけられていた。でもこの人が目で一喝すると引っ込んだ。


 ヴィムと目を合わせる。問うまでもなく彼は頷く。


「……うん! 私たちはフィールブロンに行く!」


 乗務員さんはその言葉を聞くや否や、私たちを半ば投げ込むような形で荷台に押し込んだ。


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