その83 球技大会 8番目
やっとソフト終わった……。
次は最後の、サッカーだ。
「あ、おい!」
大貴は、慌てて健太の後ろを追う。
「そこの君!危ない!!」
健太は、もう一度ボールを見る。
やはり、落下地点に早織はいた。
「え?」
そのことに気づいていないのか、早織はそんな声を出す。
次の瞬間。
(ドン!)
客席にボールが当たる。
そのボールは、跳ねて別の方向へ行く。
それを。
(パシッ)
後ろにいた大貴がキャッチする。
どうやら間一髪、間に合ったようだ。
「ふ、ふぅ……間に合った」
健太は、咄嗟に早織を押し倒すことによって、その危機を救うことが出来たのだった。
「あ、あの、え?」
「あのままあそこにいたら、ボールが直撃して、病院送りだったんだよ」
「え、そ、そうなの?」
どうやら本人は、その危機に気づいていなかったらしい。
そして今、そのことに気づいたらしかった。
「とにかく、無事でよかったよ。早織さん」
「え?何で私の名前を?」
「いや、さっき檀上でそう言ってたでしょ?」
「あ、そうだったね」
早織は、服についた埃を払い、
「始めまして。私の名前は尾崎早織よ」
「僕の名前は木村健太。よろしくね」
「木村……健太?」
その名前を聞いた時、早織は一瞬何かを思い出したかのような顔をする。
そして。
「……もしかして、旅行先で熊を退治したって噂の?」
「もうそこまで噂になってるんだ……」
「そりゃそうだろうな。あれだけのことだったんだから」
ここで、大貴が話に入り込んでくる。
「……あー!!渡辺大貴じゃない!!」
「……やっぱりお前だったか、尾崎早織」
「……え?え?」
健太は、二人のやり取りの意味を理解することが出来なかったという。
場面は戻り、愛とえりなの対決。
「くっ。さすがに最初の打席でホームランを打っただけあるわね……」
愛は、なかなか三振にならないえりなに対して、そういう感想を持った。
えりなも、
「な、何てピッチャーなの……?これだけ投げてて、まだあれだけの球を投げられるなんて……」
愛のタフさに感心していた。
「次で……終わりにする!」
「今度こそ、打つ!」
そう決意した愛の、第七球。
(ビュッ)
ど真ん中ストレート。
打者にとって、かなり嬉しい球となる。
「これなら……打てる!」
えりなはそう思い、思い切りバットを振った。
(パァン!!)
「!!」
音は、ミットより作り出された物。
これが指す意味、それは。
「ストライク!バッターアウト!!」
空振り三振。
直球かと思ったその球は、途中で垂直に落ちた。
それは、えりなに対する初球として、前のピッチャーが投げた球と同じであった。
しかし、勝負に急ぎすぎたのか、その事に気付かなかったのだ。
「くっ!」
えりなは、悔しそうにベンチへと戻る。
そして。
最終回裏。
里川高校の攻撃。
先頭打者は、愛。
「此処で決めちゃってもいいわよ、愛!」
「けど、無理はするなよ!!」
チームメイト達からの声援と、
「いけいけ愛ちゃん、頑張れ頑張れ愛ちゃん!!」
「「「「わ〜!!!!」」」」
愛ちゃん愛好会による、奇妙な応援が聞こえてくる。
「うるせぇなぁ」
そのうるささは、大貴がそう呟いてしまう程であった。
「愛〜頑張れ〜!!」
「!!」
健太が応援の言葉を、愛に送る。
その言葉が聞こえたのか、愛は健太のいる所を振り向く。
「……健太。私、頑張る!」
愛のバッティングセンスは、未知数。
よって、ピッチャーは対策を練ることが出来なかった。
「これで打たれれば……終わる」
「ここで一発打てば、終わる」
勝つのは相馬学園か、里川高校か。
その勝敗を決める第一球が投げられた。
「私は……絶対、打つ!」
愛は、思い切りバットを振った。
(ガキン!!)
バットに当たる音がする。
球は、ゆっくりと上がっていき、ライト方向へと吸い込まれていく。
「と、取れるか?」
緊張の一瞬。
入るか入らないかの瀬戸際。
そして。
(ストン)
「……」
「……くっ」
「……ほ、ホームラン!!」
最後に愛は、奇跡を起こしたのであった。