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その71 重い過去 4番目

ついに70話突破!

……だからどうしたのだろうか。

「ただいま〜」


いつものように家に帰って来た美咲。

だが、家の中の様子は、どこかおかしかった。


「……お母さん?」


美咲は、母親を呼ぶ。

しかし、こちらに来る様子はまるでない。


「……あ、お父さん帰ってきてるんだ」


下を見て、父親が珍しく早く帰ってきていることに気づいた。

ご丁寧に靴を並べていた。


「……何だか、空気が重い……」


幼い美咲でも、今この家全体の空気が、重くなっていることを理解した。

居間に行きたくはないものの、帰ってきたからには行かなくてはならない。

そのまま自分の部屋に戻るという選択肢もあったが、それをしてはいけない雰囲気がした。


「……逃げちゃ、駄目」


父親が早めに帰ってきた。

そして、重い空気。

美咲はこの時こう思ったという。


「……私、何か怒られるようなこと、したかな?」


どうやら美咲は、結構天然らしい。


「……よしっ!」


気合を入れて、中に入る。

その瞬間。















「何で今まで黙ってたのよ!!」















「……え?」


いきなりの言葉に、美咲は驚いた。

しかし、その言葉は、美咲に向けられた言葉ではなかった。

それは、母親の目の前に座っている、父親に向けての言葉だった。


「そんなの、言えるわけないだろ!!」

「だからって……何で今まで黙ってたのよ!」

「浮気してましたなんて、誰に言えるかよ!!」

「……え、浮気……」


小学生の頭でも、『浮気』という言葉がどういう意味を持っていることかを、理解することが出来る。

それゆえに、その言葉がもたらすショックは、かなりの物だった。


「み、美咲……帰ってきてたの?」


今頃美咲に気づいたかのように、母親は尋ねてくる。


「お、母さん……?お父さん?浮気って、一体……」


まさか、自分の父親が、他の女性と付き合っている。

そう思いたくはなかった美咲は、母親と父親に、そう尋ねていた。

父親は黙り込み、母親は怒ったかのように話す。


「美咲、聞いて!この人が、私に黙って、他の人と付き合っていたのよ!それでいて、更に

 別れようだなんて……許せないわよ!」

「わ、別れる……?」


別れる。

つまりは、離婚。


「そ、それって……お父さん、この家から出て行っちゃうの?」

「……済まないな、美咲」


それだけを言うと、父親は、すでに準備を済ませていたのか、イスから立ち上がり、荷物を持つ。

母親が、後ろから何かを言っていたが、父親は、それらの言葉を、すべて無視した。


「そんな……本当に、お父さん……」

「……」


そして、そのまま家を、出て行った。


「……おかあ、さん」

「……美咲」


瞬間。

母親の顔が涙で潤っていた。


「……何で、どうして。私の何が不満だったの?」

「……え?」


今まで聞いたことのなかった、母親の、泣き言。

いつも明るくて。

美咲は、そんな母親に甘えていて。

優しい父親にも甘えていて。

だけど、父親はどこかへ行ってしまった。

甘えられる人が、一人、どこかへ行ってしまった。


「……頑張ったのに。支えてたのに……!!」















その日。

美咲とその母親は、抱き合っていた。

母親の目には、涙が浮かんでいた。

美咲も、『父親』を失った悲しみで、涙を流していた。

だが、美咲を襲う悲しみは、これだけでは終わらなかったのであった……。
















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