その5 いろいろあるわけですよ 2番目
事件解決。
というか、老人が可愛そうな話です。
老人の出番、もうないかも……。
老人がこうあっさりと返してくるものだから、一同は、
「は?」
という返事をするしかなかった。
「何で・・・?」
と思わず健太も口にしてしまった。
クラス中が唖然としていて、微妙な空気が流れる中。
「きゃっ!」
「おわぁ!!」
とある一人の女の子の悲鳴により、一気にクライマックスになった。
ちなみに、最後の叫び声は、驚きのあまり目覚めてしまった吉行の声。
「な、なに!?」
外川は叫んだ。
「あ、相沢さん!?」
クラスの誰かもそう叫んだ。
そう、先ほどの叫び声はかなえのものだったのだ。
「へぇ〜。あいつ、相沢って言うんだ〜」
「先生、今はそんなふざけたことを言っている場合じゃないですよ。ていうか、何でこの
学校に脱獄犯が来るんですか?それに、この学校の管理体制はそうとう杜撰ですね」
健太は、外川と老人と、この学校の管理体制に文句を言った。
「おお、すまん」
外川は謝った。
かなえにナイフを突きつけた状態の老人は、
「そりゃあ、死ぬ前にこの学校を見たかったからじゃ」
と答えた。
「は?」
また一同は声を揃えてそう言った。
「その前に、まずアンタは何の罪で捕まったんだ?」
吉行が恐れもなく尋ねてきた。
すると老人は、笑顔で、
「腹が減っていたあまりにパンを盗んでしまったんじゃ」
と答えた。
ちなみに、パンは100円相当。
「・・・アホか!!」
大貴は吠えた。
クールな大貴からは想像出来ない程吠えた。
「こいつ、完全に狂ってるというか、馬鹿だな」
「うん、そうだね」
吉行の言う言葉に、健太は納得した。
何か、クラスメートから発せられる『もうどうでもいいよ』的な空気が流れている中、
「その子から離れろ!!」
「ふん、若造。離れろと言われて素直に離れる愚か者などおらんぞ」
犯人と警察の様な会話をする老人と外川。
そして、
「(誰でもいいから、助けて!)」
というかなえの純粋な心の中。
そりゃあ、ナイフ突きつけられれば、そんな心境にもなるだろう。
そんな中、突然老人がドアの方へと足をゆっくりと進め始めた。
無論、かなえは人質に取ったまま。
「ど、どこへ行く気だ!?」
「決まっておろう。外国へ高飛びじゃ。そうじゃな〜、イタリア辺りにかな?もちろん、
この子は連れていくぞい」
「え?」
かなえは、なにやらかつてない程の恐れを感じているらしい。
目が見開いていた。
「おい!馬鹿な真似はやめろ!!」
「いや、まず何で相沢さんまで連れてく必要があるんだよ」
外川がそう叫ぶ。
廊下にその声が響く。
大貴は冷静にそう突っ込んだ。
「もう遅いぞ、若造」
「いや、人の話聞けよじじい」
大貴の言葉を完全に無視した老人はそう言うと、また一歩ずつドアの方へと歩みを進めた。
そんなスピードでは、逃げ切れるわけがないというのに、かなえを人質に取ったまま、
一歩、一歩とドアの方へと歩みを進めている。
そして、
(ガラッ)
と、完全に外へ出ようとしたその時だった。
(スパ〜ン!!)
「ぐっ!」
(ドサッ)
老人の後頭部辺りから棒みたいのが降って来て、直撃した。
そして後ろには、ほうきを手に持って立っている健太の姿があった。
「ふぅ」
健太は思わず安堵の溜め息をついてしまった。
「おお!さすがは健太!!俺の指示通りに・・・」
「あんたは何もしてないでしょ」
(ぺチッ)
と、吉行は美奈に頭を軽く叩かれた。
その様子は誰にも見られていなかったわけなのだが。
「やったー!!」
「カッコイイ!木村君!!」
「やるじゃん!お前!!」
「さすがは主人公補正!!」
などと、健太を中心としてクラスは大盛り上がり。
一部理解不能な言葉が混ざっていたが。
「お前、なかなかやるな」
大貴が健太を褒める。
「いや別に大したことはしてないけど・・・」
いや、充分にしているはずだ。
「よかったら、俺と友達になってくれないか?」
突然の友達になってくれの言葉に健太は、
「僕でよかったら、いいけど」
と、快く承諾した。
こうして、何故か発生した脱獄犯による、校内立てこもり事件は幕を閉じたのであったの
だが、一つ疑問が残る。
「でも何故わざわざこのB組を狙って来たんだろう・・・?」
一人考えこむ健太であった。
それに関しては、大した理由など存在しないことなど、健太達は知る由もないだろう。