その44 五月 8番目
案外長かった……。
まさかこれも8番目まで来るとは……。
そして、気づけばもう44話だ。
「それで?やっぱり話はここでするんだ」
毎度恒例となっている屋上で、大貴と健太は2人で会話をしていた。
大貴の話の内容は次の通りだ。
どうやら1−Aのとある女子に恋をしているらしい。
しかし、それは一目惚れで、向こうはこちらの顔を知らないらしい。
だから、どうやったらその子と知り合いになれるのかを、健太に聞きに来たらしい。
「そういう話は僕よりも吉行にした方がいいと思うけど」
「いや、その通りなんだが。アイツは確かにいい奴なんだけど……変な方向に話が飛んでいきそうで」
「まぁ、そこら辺は美奈さんと同じベクトルだしね」
大貴は、屋上のフェンスに体を預ける。
そして、話を元に戻した。
「それで、どうすればいい?」
「う〜ん。大貴がまさか恋をするなんて……まぁそれは置いといて。どうすればいいかなぁ? 僕にはあまり検討つかないな。ていうか、大貴って結構モテるよね?」
「……モテるとかは関係ないんだ。こういうのは相手を想う気持ちが大事だろ?」
変なプライドが大貴の中に眠ることを、この日健太は初めて知ったという。
「それならば、何か共通するような話題を探ってみるとかしてみたらどうかな?」
「いや、そこはもうサーチ済みだ。相沢から話を聞いている。確か趣味はピアノらしい」
この大貴の言葉を聞いて、健太はあることに気づく。
「……え?じゃあその子って吹奏楽部の子なの?」
「ああ」
やがて、健太の想像は、ほぼ核心に近づいた。
「……もしかして、二ノ宮美夏って女の子?」
「うおっ!?な、何故名前を知っている!?」
そして、当たった。
「まぁ、昨日会ってるし……それじゃあ僕から話してみようか?大貴のこと」
「本当か!?済まないな……お前が暇な時にでも頼む」
こうして健太は、大貴からの依頼を引き受けた。
「う〜ん」
一人の少女―――マコは、校門である人物を待っていた。
その人物の名前は、木村健太。
昨日マコは、運よく健太と同じ学校に転入してきて、同じクラスにまでなれた。
「これって、奇跡だよね?」
幼い頃から、マコは奇跡に恵まれていたような気がした。
しかし、実際には、それに見合うだけの不幸も経験している。
彼女の場合は、幸福と不幸のバランスがとれているのかもしれない。
「健太君、まだかな〜?」
先ほど吉行が通って行ったので、健太のことを尋ねてみたのだが、健太はまだ校内にいると
聞いたので、校門で待っていた。
理由は一つ。
「……約束を、果たす為」
マコは小さく呟く。
「その為に、また約束を結ばなくちゃいけないんだな……」
今日は、その約束をいつ果たすのかを、健太に伝える為に、校門で待っていた。
「早く来ないかな〜」
マコは、期待を胸に、昇降口の方を見る。
そして、
「……あ!」
健太を、発見した。
「あれは……マコ?どうしてここにいるんだろう?」
げた箱から出た健太は、校門近くで誰かを待っているかのように立っているマコを見つけた。
どうしてそこにいるのか気になった健太だが、とりあえず校門まで近づいて行ってみる。
その途中で、
「健太君〜!」
マコは、大きく手を振り、健太の名前を呼んだ。
「マコ?どうしたの?誰かの帰りでも待ってるの?」
気になったことを、健太はマコに尋ねる。
すると、
「ボクは、健太君が来るのを待ってたんだよ」
「え?僕を?」
「うん」
健太は、マコからの意外な言葉に驚いた。
「何か僕に用でも?」
「あ……あのね……」
「……?」
言葉をためるマコ。
健太は、そんなマコの態度に、何か疑問を感じたが、すぐにその疑問は晴れた。
「六年前の約束、覚えてる?」
「六年前…………うん、覚えてるよ」
「あの約束、今、果たそうと思って」
「!!」
その言葉を聞いた時、健太は驚いた。
「―――覚えてて、くれてたんだね」
「当たり前じゃん!ボクは、健太君との約束を一度たりとも忘れたことなんてないんだから」
「……そっか。ありがとう」
健太は笑顔でマコにお礼を言った。
「ど、どういたしまして……」
「?どうしたの、マコ。顔が赤いよ?」
「な、なんでもない!……かも」
健太の笑顔を見たマコは、顔を赤くして、健太のことを直視できなくなっていた。
そんな状態ながらも、マコは話を切り出す。
「それでね。今度の月曜日に、それを含めて……その、あの、えっと」
「……?」
「街とか、案内してくれると嬉しいかな〜なんて……」
顔が赤いまま、マコは健太に話した。
「うん。僕でいいなら、いいよ」
「ホント?やった〜!」
マコは、子供のように喜んだ。
「それじゃあ、10時に沢渡橋に集合でいいかな?」
「もちろん!」
健太の提案に、マコは笑顔で返事を返した。
そして、運命のG.Wがやって来た。
次回はここまでの登場人物紹介です。