その41 五月 5番目
40話を過ぎても、この話は終わりません。
しばらくはこの話が続くことでしょう。
……もしかして、「とある少女との過去」編よりも長くなる?
「健太君!」
(ギュッ)
何者かが健太に抱きついてきた。
「……マコ、だよね?」
「そうだよ♪」
抱きついてきた張本人である、雛森マコは、笑顔で答える。
「あれ?この人って……アイドルのMAKOじゃないの?」
「そうだよ。今日うちのクラスに転校してきた、MAKOこと雛森マコだよ」
えりなは、マコのその言葉を聞いて、とても驚いた。
「ほ、本当に?それに、あなた達の知り合い!?」
「正確に言うと、健太の知り合いらしいけどな」
実は、健太とマコの関係について、吉行は、コンサートの後に聞いていたのだ。
「へぇ〜そうだったんだ」
「ん?そういえば、そろそろチャイムが鳴る頃じゃねぇか?」
吉行がそう言ったちょうどその時に。
(キーンコーンカーンコーン)
「お?チャイムが鳴ったな」
「って、急がないと駄目じゃん!」
四人は、急いで自分の教室へと戻って行った。
放課後。
「ふ〜終わった終わった」
手をのばしてストレッチをしながら、吉行はそんなことを言った。
「吉行。ちゃんとHR聞いてた?」
「……ごめん。聞いてなかった。なんか特別なこと言ってたか?」
「えっとね……来週までにこれを提出しろだってさ」
そう言って健太が出したのは、第1次進路調査書だった。
「これか……ついにこの時が来たか」
「どの時だよ」
わけの分からない吉行の言葉に、健太はそう突っ込みを入れる。
そんなこんなでいろんな話をしながら、途中で健太はある方向を見た。
「……馴染んでるみたいだね」
「……ああ」
その方向にいるのは、マコだった。
何やら、クラスの人達に囲まれて、何かを話している。
恐らくは、好きな食べ物は?とかだろう。
「ん?何であいつまで混じってるんだよ」
「……あ」
よ〜く見ると、美奈の姿まであった。
「さすが美奈さんって所かな……」
「まぁ、中川だしな」
「健太君」
突如、背後から健太を呼ぶ声が聞こえてきた。
その声の主を確認するために、健太は後ろを振り向く。
そこにいたのは、
「あっ、かなえさん」
かなえだった。
下校の準備はとっくに済ませたみたいで、かばんを片手に持っていた。
「そ、その……もしよかったら、途中まで、一緒に帰らない?」
「え?かなえさんの家って反対側じゃなかったっけ?」
「途中までは一緒なの。あの橋の所までは」
あの橋というのは、街を街をつなぐ橋のことだ。
名前を、『沢渡橋』という。
隣町にある四季学園に行くには、この橋を通らなくてはならないのだ。
そして、かなえの家は、この橋を真正面から見たときに右側に進めば家に帰れる。
対して健太は、この橋を真正面から見たときに左側に進むと家に帰れるのだ。
だが、この橋まで行くには一本道しかなく、多くの学生はこの橋を基準として帰る人が多いのだ。
「うん、いいよ」
「ってお前って部活あるんじゃなかったか?健太」
「あ……そうだった」
「私も部活なの」
どうやらかばんを片手に持っていたのは、下校する為ではなく、部活へ行くためだったらしい。
「そ、そうなんだ。何部に入ってるの?」
「吹奏楽部」
「じゃあ、6時ころに終わるのかな?」
「たぶん……そのころだと思う」
かなえはそう答える。
健太は次にこう言葉をつなげた。
「それじゃあ、校門のところに6時頃待ち合わせってことで」
「あ……うん!」
笑顔で快い返事を返したかなえ。
その顔を見て、健太は一瞬ドキッとしてしまった。
「それじゃあ、またあとで!」
(タタタタタ)
そのままかなえは走り去ってしまった。
「……健太、お前ひとりだけで青春を満喫するとは、一体何事だ?」
「いや、そんなこと言われても……」
とにかく健太も部活へと急いでいった。
ジッと自分の方を見てくる視線に気づかぬまま。