その39 五月 3番目
また過去に突入してる。
どれだけ過去の話好きなんだこの小説は……。
三年前。
健太達が中学校一年生だった頃の話だ。
「なぁ健太。夜の裏路地の話って知ってるか?」
「裏路地の話って……まさかあれのこと?」
「ああ。なんでも、女の子が立て続けに襲われてるって話。しかも、今月だけで5件も発生
してるらしいぜ」
「五件!?それは多いね……」
「というわけでさ……」
(ガタッ)
吉行は、イスから立ち上がって、宣言した。
「俺達で犯人見つけようぜ!」
(キラ〜ン)
歯元を光らせて、吉行は言った。
「あのさ……相手はナイフとか持ってるんでしょ?素手で行くのはちょっと……」
「ん?お前なら大丈夫じゃないか?」
「あ……僕戦うこと決定なんだ」
健太は、肩を下ろしてそう言った。
「当たり前だろ。俺だけだと心細いじゃねぇか」
「いや、それなら何か武器持ってくればいいじゃないか。例えば棒とか……」
「用心棒とかな」
「……うまいこと言ったつもり?」
健太は呆れて吉行にそう言った。
その時。
「あれ?二人で何話してるの?」
「あ、愛」
そこに、愛が入ってきた。
「実はね……」
そこで、健太はここまでの話を説明した。
すると。
「ふ〜ん。頑張ってね、二人とも♪」
「……あれ?二人で行くこと、確定?」
こうして健太と吉行は、二人で調査に行くこととなった。
「というわけで来てみたはいいけど……」
「どう考えても、こんな所に人なんて来る訳がなく」
「今に至る、と」
物陰に潜んで、誰かが来るのを待っている二人だが、こんな夜中に誰も裏路地に来るはずなど
なく、待ちぼうけを喰らっていた。
「あ〜美咲が怒ってるだろうな……」
「大丈夫だろ。美咲ちゃんはいい子だから。お前と同じでさ」
吉行が、皮肉そうにそう言う。
そうしている間に。
「ん?誰かがこっちに来るぞ」
(コツコツ)
「……確かに足音がするな」
「ひょっとすると……」
吉行は、右手に持つ鉄パイプを一瞥する。
「これが必要になってくるか」
「……どこで拾ったのさ、それ」
「いや、案外こういう所には落ちてる物だぜ」
「そうですか……それにしても、妙だ」
健太が、そう呟いたのを聞いて、吉行が、
「何が?」
と尋ねた。
「だって、ここは路地裏でも、行き止まりじゃないか」
「……まさか」
「多分、そのまさかだと思う」
そう。
ここは裏路地でも、行き止まりの所。
普通ならこんな所に入ってくるはずがない。
しかし、入ってきたということは。
「これはやっぱり……あの事件か」
走ってきたのは、学校帰りの女子生徒だった。
「……決まりだな」
(スクッ)
吉行は、右手に持つ鉄パイプを構えて、静かに立ち上がる。
「お、おい!相手はナイフを持ってるかも知れないのに……」
「健太。男にはな、やらなくちゃいけない時があるんだ。邪魔しないでくれ」
「だけど、護衛の為に後ろからついてくよ」
「……ああ、頼む」
いつになく真剣な眼差しの吉行を見て、健太は頷いた。
その距離は、段々縮まっていく。
「……」
「今だな」
(ダッ!)
吉行は、一気に駆け出した。
健太も、後ろからついていく。
「うおおおおおおおおおお!!」
「な、何だお前らは!?」
「通りすがりの中学生だよ!!」
「待ち伏せしてたけどね」
走りながら、健太はそう突っ込んだが、もちろん誰にも聞こえない。
こうしている間にも、吉行は犯人目掛けて鉄パイプを振り下ろした。