その35 とある少女との過去 7番目
本当に想定外の出来事が発生してしまいました。
これだけで、「とある少女との過去」編が終わりませんでした。
ですので、次回で終わりにしたいと思います。
コンサート開演10分前。
控え室で休んでいる、一人の少女がいた。
少女は、アイドル『MAKO』。
茶色のショートヘアー、パッチリとした薄茶色の瞳、星型のヘアピンをつけていて、
コンサートの衣装として、スカートの短いワンピースを着ていた。
この衣装は、MAKO本人の希望らしい。
「……何で今日になって、あんな夢を見たんだろう」
見た夢の内容は、六年前の旅行の日の夢だ。
「……やっぱり、まだ忘れられないのかな」
六年前にある約束をした相手。
しかし、今に至っても、その約束は果たされてはいない。
これからも、果たされることはないかもしれない。
―――あの日、彼女は例の飛行機に乗っていた。
しかし、彼女は運よく一命を取り留めたのだ。
本当に、それは奇跡だった。
だが、その奇跡はの代償は、大きかった。
両親は死に、『**君』に会えなくなった。
親戚に引き取られたMAKOは、歌手になるためにオーディションを受け、合格した。
そして、わずか一年で大ブレイクした。
これが、二年前の話である。
それから二年間、約束を果たそうと今日まで頑張って来た。
しかし、その約束は、未だに果たされてはいなかった。
「……会いたいよ。ボク、健太君に会いたいよ」
思わずMAKOはそう呟いた。
そのときだった。
「MAKO。そろそろスタンバイして!」
という、若い女性マネージャーの言葉が聞こえて来た。
「あ……ハイ」
(スクッ)
その声に反応するかのように、MAKOはイスから立ち上がった。
そして、会場に行くために、控え室から出た。
その時だった。
「……マコちゃん」
「え?」
女性マネージャーが、『MAKO』に対してではなく、雛森マコに対して、言った。
「暗い顔しないの。暗い顔してると、ファンの人達まで暗くなっちゃうよ」
「……はい」
「それに……」
「え?」
女性マネージャーは、こうも続けた。
「奇跡と幸せはね、困難を打ち破る為に努力した人とね、笑顔で前を向いていられる人にしか
やってこないんだから。そんな顔してちゃ、幸せが逃げちゃうよ」
「……そうだね!」
マコの顔に、笑顔が戻った。
いつもテレビで見るような、明るい笑顔だった。
「やっぱりマコには笑顔が似合ってるよ。それじゃあ本番もよろしくね、『MAKO』」
「はい!」
マコは、アイドルの『MAKO』になって、返事をした。
健太達は、偶然にも、先頭で、一番前という素晴らしいポジションを取ることが出来た。
これは、本当に偶然としか言えなかった。
「それにしても吉行。本当にいい席とったね」
「ああ……自分でも信じられないほどだ」
席は左から、大貴・美咲・健太・かなえ・吉行の順番だった。
美咲は、吉行の隣が嫌で、健太の隣がよかったということで、こういう順番になった。
恐らくは、会場に来る前の吉行の言葉が気に喰わなかったのだろう。
「もうそろそろ始まるね」
健太がそう呟くと、
「ようし、それじゃあそろそろ……」
吉行が何やら準備を始めた。
そして。
「MAKOちゃん!MAKOちゃん!」
コールを始めた。
「MAKOちゃん!MA「KOちゃん!M「AKOちゃ「ん!「MAKOちゃん!」」」」」
一つだったコールは、二つに。
二つだったコールは。三つに。
やがて、そのコールは、会場全体から響き渡るようになっていた。
そのコールが、全員から発せられるようになった時。
(プシュ〜!!)
ステージより煙が上がり、アイドル『MAKO』が、ステージに上がって来た。