その34 とある少女との過去 6番目
時間は変わり、現在です。
コンサートに行く前の5人の会話が中心です。
次回で『とある少女との過去』編も終了する予定です。
もしかしたら、予定変更もありえるかも……。
「……」
健太は、意味もなく天井をボーと眺めていた。
いや、先ほどまで六年前の出来事を思い出していた。
「……忘れてたはずなんだけどな」
「へ?何を?」
健太にひっついている美咲が尋ねて来た。
「あ、いや、何でもないよ」
「……そう?」
美咲は、まだ腑に落ちない所があるみたいだったが、笑顔で、
「日曜日が楽しみだね、お兄ちゃん♪」
「う、うん」
髪留めから出ている髪をピョコピョコと動かしながら、美咲は言った。
「明日は早いからね。もう寝なきゃ」
「そうだね!」
そう言って、健太に抱きついたまま、同じ布団の中で寝ようとする美咲。
「……美咲、自分の布団があるでしょ?」
「う……」
「いい加減一人で寝なさい」
「い、いいじゃん!まだ私は中学生なんだから!」
「いや、あのね……」
これ以上何を言っても無駄だと悟った健太は、寝ることにした。
そして、日曜日。
駅前で、健太と美咲は、みんなが来るのを待っていた。
現時刻7時48分。
集合時間まではまだ余裕があった。
「吉行さん以外はみんな知らない人だからな〜。楽しみだな〜」
「そう?それなら良かったけど……」
「(それに、かなえさんがどんな人だか、確かめなきゃ)」
「……?」
自分の妹から発せられる謎のオーラに、健太は若干疑問を感じた。
そんな時に。
「よっ!」
「おはよう」
吉行と大貴がやって来た。
「お兄ちゃん、このクールな人が大貴さん?」
「うん。渡辺大貴だよ」
「好きな風に呼んでくれ」
大貴はやはりクールにそう言った。
「それじゃあ、大貴さんって呼ばせて頂きますね♪」
「あ、ああ……(やりにくいな)」
大貴は心の中でそう呟いていた。
「相変わらず可愛いな〜美咲ちゃんは。健太、俺にくれよ!」
「いや、それは無理だから……」
健太が呆れてそう言うが、吉行はあきらめない。
「美咲ちゃん!俺の妹になってくれ!」
「無理です♪」
「うわぁああああああああああああああああああああ!!」
笑顔で即答されたため、吉行の精神的ダメージは、かなり大きかった。
あまりのダメージに、頭を抱えたまま、吉行はその場に崩れ落ちていた。
「哀れだ……」
そんな様子を見て、大貴はそう呟いていた。
その時に。
「おはようございます!」
8時5分前に、かなえがやって来た。
「おはよう、かなえさん!」
「む……この人が、かなえさん?」
美咲がそう尋ねて来たので、
「そうだよ。相沢かなえさん」
健太がそう説明すると、かなえは笑顔で美咲に挨拶をした。
「よろしくね、美咲ちゃん」
「あ、はい、こちらこそ……」
この時美咲は思った。
「(この人、ひょっとしたらとてもいい人じゃ……けど)」
「?」
健太は、何かブツブツつぶやいている美咲を気にしたが、そんな心配は不要になった。
「かなえさん!」
「え?な、何?」
「いくらかなえさんがいい人だとしても、お兄ちゃんは渡しませんからね!」
(ギュッ)
言って、美咲は健太の腕を強く抱きしめた。
「こ、こら美咲……」
健太はそう言って美咲の腕を離そうとするが、離れない。
「このまま禁断の兄妹愛、行ってみるか?」
「冗談じゃないよ!」
「つか、このままだと木村が誤解されるな、間違いなく」
この状況を目の当たりにしても、大貴は冷静にそう言って見せた。
「だから離してよ、美咲!」
「……分かったよ。そのかわり、家では覚悟しといてね」
「はいはい……」
ようやっと解放された健太は、後で起こるだろう出来事に頭を悩ませていた。
「ま、何がともあれ、コンサートだ!みんな、今日は楽しむぞ!!」
「「「おー!」」」
「ふん……」
健太・美咲・かなえの三人は吉行の流れに乗り、大貴はクールにそう言った。