その32 とある少女との過去 4番目
過去編その2です。
これからも、過去の話はどんどん出ますよ。
「な、何でみんな気づかないの!?」
「あそこは遊泳禁止区域付近だ。気づかなくても仕方ないんだよ」
慌てる健太に、父親は冷静に答える。
「助けなくちゃ!」
「そうだ……っておい健太!待て!」
父親の言葉が終わる前に、健太は溺れている少女の方へ泳いでいた。
(バシャバシャバシャ)
「待ってて!今助けに行くから!!」
溺れている少女は、健太と同年代の少女にも見える。
「……誰かがピンチになると、健太は力が発揮されるのか?」
父親も懸命に泳いでいるが、健太に追いついていない。
一定距離を保っていた。
その状態のまま、先に健太が少女の所に着いた。
「もう大丈夫だよ!」
健太は少女の肩に触れ、そう囁く。
「……え?」
少女は、見知らぬ人に話しかけられたからなのか、多少体の動きが止まる。
「健太!このまま砂浜の方まで彼女を連れてくぞ!」
「うん!」
健太と父親は、少女の体を支えながら、今来た道を戻る。
「あ、あの……」
落ち着きを取り戻した少女が、健太にそう言う。
「大丈夫。僕達が無事に連れてってあげるから!」
「……うん」
安心したように、少女は頷いた。
健太達は、必死に砂浜を目指した。
頑張った甲斐あってか、健太達は無事にビーチに戻って来ることが出来た。
「あ、あの……」
「ん?何?」
少女が健太を呼びかけて、言った。
「助けてくれて、ありがとう!」
「……うん!」
その子は、健太と同じ年齢の少女だった。
茶色のショートヘアー、パッチリとした薄茶色の瞳、背は健太よりも少し低いくらい。
星型のヘアピンをつけていて、さっきまで水着を着ていた少女は、今ではスカートの短い白い
ワンピースを着ていた。
「ボクの名前は雛森マコ」
「僕は木村健太。よろしくね!」
それが、健太とマコの出会いだった。
とある夏の日の、沖縄の海での出来事だった。
偶然にも、マコと健太が泊まっているホテルは同じホテルで、部屋は隣同士だった。
なので、マコが健太の部屋に遊びに来ていた。
「それでね、父さんが……」
「アハハ!健太君のお父さんって、面白い人だね!」
「まぁ確かに面白い父さんだけど……ちょっと度が過ぎてるというか」
互いの話を聞いたり話したり。
「健太君って好きな食べ物何?」
「僕?僕はみかんかな〜。マコちゃんは?」
「ボクも一緒だよ!」
互いの共通点を見つけて喜んだり。
「明日も一緒に遊ぼうね!!」
「もちろん!!」
遊ぶ約束をしたり。
「マコちゃんってどこに住んでるの?」
「う〜ん、春日部って言ってたかな?」
「本当!それじゃあ家の近くだ!!今度遊びに行ってもいいかな?」
「もちろん!」
いろんな話をした。
こんな時間がずっと続くと思っていた。
しかし、現実というのはそんなに甘い物ではなかった。