その29 とある少女との過去 1番目
過去編に参ります。
何か、ありがちなシチュエーションですけど、ご勘弁を。
しかし、まだ過去の話には入りません。
オリエンテーション旅行が終了して一週間が経過したある日のこと。
「なぁ健太。今度の日曜日にコンサート見に行かないか?」
「……唐突だね、吉行」
朝のHRの前の時間。
吉行は健太にそう尋ねて来た。
「いやぁ、実はチケットが結構取れたから、ホレ」
(ピラッ)
言って、吉行は健太にチケットを見せる。
「うわ、こんなに……」
チケットは、5枚握られていた。
「一体どうやってそんなにチケットを手に入れたの?」
「……それはな。あの手この手を利用してだな……」
「あの手この手ってどんな手だよ」
健太は思わず突っ込んでいた。
「それで?誰のコンサートなの?」
「聞いて驚くなよ?なんとだな、今大ブレイク中の超売れっ子アイドル、『MAKO』ちゃん
のライブだぜ!?」
「「「「ま、まじで!?」」」」
他のクラスメート達の反応はバッチシだった。
しかし、肝心の健太の反応は薄い。
「……あれ?何で健太の反応が薄いんだ?」
「だって、バラエティとかあんまり見ないし」
そう。
健太はあまりテレビでバラエティ番組を見ないのだ。
もっとも、美咲が来てからはいくらか見るようになったのだが、それでも見る確率は少ない。
「な……何ということだ!我が親友が、MAKOちゃんの存在を知らぬとは!?」
「いや、名前くらいは聞いたことあるけど、顔とかは……」
「くそっ!写真を持ってないのは痛いぜ!」
「……吉行ってMAKOのファンなの?」
「いや、そこまでじゃない」
即答だった。
「ただな。MAKOちゃんはかなり有名だぞ。本名は未公表だが、年齢は俺達と同じで15歳
という、何と高校一年生なんだ!そして、歌がかなりうまい!!ここが重要なんだが……
何といってもやっぱり笑顔が最高!!もう可愛いんだこれが!」
「……」
健太が呆れた目で吉行を見ていた。
「詳しすぎるよ、吉行」
「まぁな!」
(キラ〜ン☆)
吉行の歯が光った気がしたが、多分気のせいだろうと思い、健太はスルーした。
その時の吉行の笑顔は、結構痛かったという。
そんな時だった。
(ガラッ)
「おはよう!」
「あ、かなえさん。おはよう」
「よう、相沢!」
そこにかなえが入って来た。
「いきなりで悪いんだけど、相沢って『MAKO』って知ってるか?」
吉行がかなえに尋ねる。
「あ、その人知ってる!確か今話題の売れっ子アイドルだよね?それがどうしたの?」
かなえもMAKOのことを知っていたらしい。
「いや、実はね……」
そこで健太はかなえにここまでのことを説明した。
すると。
「それじゃあ、私も行こうかな」
と言ってきた。
「お?いいぜ。チケットはまだあるからな」
(ピッ)
吉行は、かなえにチケットを一枚渡す。
「それじゃあ、美咲も連れて行こうかな?」
「美咲……ああ、健太君の妹だね」
「うん。多分美咲も行くって言うだろうから」
「それじゃ健太には二枚渡しておくな」
吉行から健太に二枚のチケットが渡された。
「あ、それなら美奈も……」
「私は行かないわ。その日は用事があるから」
美奈はパスした。
「というか、いつの間に来たんだ」
「おはよう、健太」
「あ、おはよう」
それだけを言うと、美奈は自分の席に着いてしまった。
「それだと後一枚チケットが余るな……」
「う〜ん、大貴なんか誘うのどう?」
健太がそう提案する。
その提案に、
「いいんじゃないか?」
「いいんじゃないかな?」
吉行とかなえはそう言葉を返してきた。
(ガラッ)
そこに都合よく大貴が入って来た。
「おう、渡辺!」
吉行が大貴を呼ぶ。
「何だ?海田」
「お前、今度の日曜日って空いてる?
「ああ。別に用事はないが。どこか行くのか?」
「それなら、コンサートに行こうぜ!」
「コンサート?別にいいが……」
「よし!」
これで全員分のチケットを使うことが出来た。
「それじゃあ集合は午前8時に駅前な!」
吉行のその言葉と共に。
(キーンコーンカーンコーン)
HR開始のチャイムが鳴った。