番外編その23 それぞれの結末 5番目
「私のことが、好き……何ですか?」
「ああそうだ!」
勢いで言ったわけではない。
大貴の本心からの叫び。
それは、夏美の心を揺らすのには、十分の物であった。
「そ、そんな……そんなこと……」
「あるんだよ。何故なら、目の前にその張本人がいるんだからな」
大貴の瞳には、恐れなど感じられなかった。
迷いなど感じられなかった。
感じられるもの―――それは決意。
それは自信。
それは答えを求める心。
いろんなものが入り混じっているが、そこに負の要素はなかった。
「この想いに狂いはない。そして、迷いもない。俺はこの告白が受け入れてもらえなかったとしても、
後悔なんて絶対しない。何故なら、俺は本人に想いを伝えることが出来たんだからな」
「……」
言葉を失ってしまった。
夏美から何かを言うことは、出来なくなってしまっていた。
「だから答えを出してくれ……俺は、二ノ宮がどんな答えを用意したとしても、それに従う。何故なら
俺は、お前のことが好きだから……お前の幸せを、誰よりも願っているから」
「……ずるいです、渡辺君」
「え?」
発せられた一言は、このような物だった。
およそ、この場に合わない呟き。
されど、この場に合うような呟き。
どちらとも取れるこの呟きのおかげで、大貴はアクションを起こすことを忘れてしまっていた。
「そんなこと言われたら、意地でも答えを見つけなければならなくなってしまいます」
「ああ……すまないな。やっぱり俺は、せっかちなんだよな」
右手で頭をボリボリと掻きながら、大貴は恥ずかしそうに言った。
しかし、すぐに真剣な顔つきになった。
「すぐに答えを出してくれとは言わない。けど、出来れば、早めに答えを出してほしい」
「……分かりました。では、この場で答えを出してしまいましょう」
「え?今すぐに答えは出るのか?お前、健太にまだ告白してないんだろう?」
「……いえ、もう本当にいいんです。私のことを、ここまで大切に想ってくれる人の存在に、気づけた
のですから」
胸に手を当てて、夏美は呟いた。
「え?それって……」
「……その告白、受理したいと思います」
夏美から発せられた一言。
それは、肯定の意を表すもの。
すなわち、告白を受け入れたのだ。
「そんな……お前、それでいいのか?」
「いいも何も、こうしたいと思ったからしたんです。何か間違いでもありますか?」
「いや、ないけど……」
「……でも私、健太君のことも忘れられそうにありません」
「……まぁ、すぐに忘れろって方が難しいよな」
伝えたわけでもないのに。
言われなくても、想いが届かないことを知っている少女。
そんな少女に、もうその人に想いは通じないのだからとっとと忘れろ。
と言う方が辛いだろう。
「……それでいいんだよ。今はそれで。けど、いずれ俺しか目に入らないようにしてやるよ」
「……クスッ」
「そこで何で笑う!?」
心底驚いたような表情を浮かべて、大貴は突っ込みを入れた。
その姿を見て、夏美は更に笑いだす。
「だって、大貴君が面白いから……」
「だからって……って、大貴君?」
「はい。下の名前で呼んでは……駄目ですか?」
「あ、ああ……喜んで」
このうえない幸せを感じている大貴。
だが、夏美の目を大貴にだけ向けるには、まだまだ時間がかかるだろう。
しかし、大貴は想う。
「(いつか必ず……二ノ宮を―――夏美を、俺だけを見ているようにしてやる)」
そう心の中で、決意した。
それは、結末であり、始まりでもある。
この二つの物語は、見事に結末を迎い、始まりを迎え入れることができた。
その後の物語をどう広げるかは、当事者同士にかかっている。
彼らを取り巻く人物達の物語は、まだ結末を迎えてはいない。
どんな結末を迎えるかは、彼らにかかっている。
だが、これだけは言わせてほしい。
願わくば、幸せな結末を迎えてほしい、と。
これにて番外編は終了です。
次回より、本編に舞い戻りたいと思います。
残りあとわずかのこの小説ですが……どうか最後まで健太達の物語を見守ってあげてください。