番外編その22 それぞれの結末 4番目
「それで、話ってのはなんなんだ?」
空き教室に入った二人。
吉行は、早速美空にそう問いかけた。
だが、美空はどこか、迷っている様子であった。
「あ、あの……吉行君」
「ん?なんだ?」
だから美空は、逆に問う。
「これから私が言うことに対して……どんな反応をしてもかまいません」
「あ、ああ……そのつもりでいるけどよ」
「ですが……もし断ったとしても、明日からもまた、この関係でいさせてください」
「?何のことか分からないけど……分かった」
美空が言った言葉の意味が、少し難しかったのか。
吉行は、何を言っているのか理解することが出来なかった。
ただ、美空が本当に伝えたかったことは理解出来たらしく、首を縦に頷かせた。
「あの……私、」
「……」
吉行は、ただ黙って聞いていた。
美空の発言を邪魔しないように。
ただ、静かに、美空の次の言葉を待っていた。
「私……吉行君のことが……」
そこで、美空は最後の迷いに入る。
この想いを、伝えてもいいのだろうか。
伝えることで、自分達の関係が崩壊するのではないか。
ろくに自分達は話もしないのに。
日常会話で、ほんの少しだけ会話するのみなのに。
そんな自分が、想いを伝えていいのだろうか。
「……倉木」
「は、はい?」
突然自分の名前を呼んできた吉行に、美空は少し驚いたような反応を見せる。
「何を迷ってるのか知らないけどよ……それは少なくとも、俺に関わることなのか?」
「……」
(コクッ)
美空は、無言で頷いた。
「そうか……なら、俺は知りたい」
「え?」
「倉木が……俺のことについて、どんな話をするのか。迷わないでほしい。お前のその考えを……俺に
ぶつけてほしい」
「……」
今の一言で、美空の決心はついた。
もう美空の心に、迷いはなかった。
「私……吉行君のことが……」
言葉を一旦溜める。
吉行は、美空の瞳をじっと見る。
美空も、吉行の瞳をじっと見て、言った。
「私は……吉行君のことが好きです!もしよければ……私と、付き合ってください!!」
「……へ?」
美空の想いを聞いた吉行が最初に発した言葉は、驚きの言葉であった。
と言うより、一瞬吉行は自分の耳を疑ったりもした。
自分のことを、ここまで想ってくれる人がいるなんて、思ってもみなかったからだ。
「倉木……それは、本当か?」
「は、はい……」
顔を赤くして、美空は答える。
「……冗談ではなく、本気でか?」
「はい」
今度は、強い返事が返ってきた。
吉行の顔まで赤くなってきていた。
「……俺なんかで、よかったのか?」
「吉行君だから、いいんです!!」
「!?」
空き教室に響く、美空の声。
「私……初めて吉行君に出会った時は、面白い人だなって思ってました。ですが、学級委員として
一緒に仕事していく内に、いつの間にか……吉行君のことが頭から離れない日々が続いていました」
「……」
「こんな想いになったのは、吉行君が初めてでした……ですから、私は同時に不安にも想ったんです」
「不安?」
吉行は、思わず聞き返していた。
そんないきなりの質問に対しても、美空は答えた。
「吉行君に、想い人がいたらどうしよう……先に告白されてしまっていたらどうしようって」
「ははは……俺にそんな人がいるとは思えないけどな」
自嘲するかのように、吉行は笑う。
「そんなことありません!吉行君はとってもいい人です。例え他の人が分からなかったとしても……
吉行君にはいい所がたくさんあります!」
「例えば……どんな所?」
今度は、いたずら気味に尋ねてくる。
「例えばですね……優しい所、面白い所、場の雰囲気を盛り上げるのがうまい所、くじけない所、
それから……」
「……もういいぜ。長くなりそうだからな」
その途中で、吉行は美空の言葉を切った。
美空は、少し残念そうな顔を浮かべる。
「そんな顔すんなって。俺自身、まさかそこまで利点があるとは思ってなかったから少し驚いただけ
だから」
フォローするかのように、吉行は言う。
瞬間。
美空の顔に、笑顔が宿った。
「……倉木、いや、美空」
「……え?」
吉行は、初めて美空のことを下の名前で呼んだ。
その小さくて大きな変化を、美空は聞き逃すはずがなかった。
「今、私のことを……」
「こんな俺でよかったら……その想い、受け取ってやる」
「そ、それじゃあ……」
「ああ……」
吉行は、言葉だけでは足りないと思ったのか。
行動でも、その想いに対する答えを示した。
吉行と美空の唇は、重なった。