番外編その19 それぞれの結末 1番目
放課後。
夕夏の一件があった後、大貴は帰るのにはまだ早い時間だと判断したため、どこかに行こうと考えた。
しかし、すぐに雨が降っていることを思い出し、より道するのは面倒だと判断した。
なので、
「……図書室でも行くか」
何となく大貴は、図書室に行く気になった。
1-Bの教室から図書室に行くのは、そう難しいことではない。
階段を一つ上がって、左に曲がり、そのまままっすぐ行けば図書室がある。
「でも、何でまた俺は図書室なんかに行く気になったんだ?」
大貴はここで、何故自分が図書室に行く気になったのかを考える。
しかし、自分の気持ちに対して疑問を持つのはどうだろうと考え、すぐにそれをやめた。
「ま、たまには本を読んでから帰るのもいいだろう」
そう呟いた大貴は、気づけばすでに図書室の扉の前に立っていた。
「……何で」
そして、大貴は何かを感じた。
どうしてか、図書室に入ることを拒んでいるのだ。
「……まぁ、図書室に入るだけなのにそんなこと感じてどうするんだって話だよな」
大貴は、その『何か』をまったく無視して、
(カラッ)
図書室の中に入って行った。
「……あ」
そして、大貴は見つけた。
目の前で座って本を読んでいる……夏美の姿を。
「よ、よぉ、に……!!」
呼びかけようとして、気づいた。
夏美が、泣いていることに。
「(本のタイトルを見る限り、ってか、さっきからページをめくってない。ってことは、本とは関係
なしになにかがあった?)」
そう考えた大貴は、夏美に対する対応を変えることにした。
「……どうしたんだよ、二ノ宮」
「……渡辺君?渡辺君こそこの場所に来るなんて珍しいですね」
「あ、いや、俺は何となくここに来ただけだ」
涙をハンカチで拭いてまで、夏美はいつもと同じ笑顔で大貴に尋ねる。
まさかそう切り返されるとは考えてなかったので、大貴は内心驚いていた。
ただ、同時に気付いてしまった。
「(やっぱりこの笑顔、いつもと違う)」
大貴は、夏美の笑顔が、いつもと一緒で、いつもと一緒ではないことに気付いた。
本当に、些細な変化だった。
笑っているのに、心から笑えていない。
笑顔なのに、そこには悲しみすら見えている。
そんな、ほとんどの人が感じないだろう変化に、大貴は気付いてしまった。
「……なんで今にも泣きそうなんだよ」
「え?私……泣いてなんか」
「嘘だ。ならどうして、さっきハンカチなんて取り出して涙を拭いてたんだ?」
「それは、汗を拭き取っていただけで、涙なんか……」
「ここは空調は完璧だ。大体、こんな真冬の時期は、汗なんてかくことはあまりない」
「……」
いつもの大貴ではなかった。
夏美の前になるとウジウジしてしまう大貴は、そこにはいなかった。
「何があった?話したら楽になるかもしれないぞ」
「……優しい人なんですね、渡辺君は」
「え?」
夏美の口から、そんな言葉が飛んでくる。
その言葉を聞いて、大貴は一瞬膠着しかける。
しかし、今はそんな時ではないと、すぐに判断した。
「分かりました。渡辺君なら、私の悩みを聞いて、笑わなそうですし、誰にも言わないって信じることが出来ます」
「あ、ありがとう……」
(カァッ)
大貴は、自分の顔が若干ながら赤くなっていくのを感じた。
「それじゃあ、話します」
そう言った後に、夏美は大貴に話を始めた。