その239 決意 3番目
「告白……するべきだと思う?」
「はい。私はそう思います」
夏美は、自分の意見をはっきりと、健太に伝えた。
その表情は、えらく真剣なものであった。
「……どうしてそう思うの?」
健太は、夏美にそう尋ねる。
「そうしたとして、もし失敗なんかしたりしたら……」
「……恋愛というものは、失敗なんて考えてた時点で負けるも同然なんです」
「え?」
突然口を開いた夏美。
その言葉は、まるで当然とでも言わんばかりの口調だった。
「失敗したらどうしよう、なんて考えている内は、自分に負けてる証拠です」
「自分に、負けている……」
「そうです」
夏美は、まるで決意を求めるかのような口調で、健太に言う。
「だから、私はその人に、あなたの想いを伝えるべきだと思います……でないと、後悔することになる
かもしれませんから」
「こう、かい?」
「はい」
健太には、それが何を意味するのかは分からなかった。
ただ、夏美が伝えたいことだけは、何となくわかったような気がした。
「これからその想いを伝えるって時に、その人がもうすでに想い人がいて、その人は別の人と結ばれる
なんて最悪な結末だって考えられるわけなんですよ?」
「……あ」
夏美から告げられたその言葉を聞いて。
健太は、数日前の愛の言葉を思い出した。
確かその時も、自分は想いを告げる前に、その人には想い人が出来てしまったと言った。
愛の想い人が自分だったという真実も、昨日直樹より聞いた。
だが、健太自身は何もすることが出来ない。
もう自分には、告白をするべき人は、別にいるのだから。
夏美とて例外ではない。
もし、夏美も健太のことが好きなのだとしたら、それはある意味で裏切り行為となるだろう。
だからと言って、健太はすべての人の期待に応えることは出来ない。
健太の体は紛れもなく一つで、その心もまた、一つなのだから。
「……そうだね。告白する前に、その人に好きな人がいたとしたら、その瞬間に終わりだもんね」
「そうですよ……最も、私の想ってる人には、好きな人がいるかどうかすら分からなかったりするの
ですが」
「……そうなの?」
「はい」
今の発言から、健太はこう思った。
「(二ノ宮さんの好きな人は、別にいるんだ)」
安心していた。
「……だから、健太君は、早くその人に告白するべきです。そうすれば、周りの人の被害も少なくて
済みますから」
「……周りの人の被害?」
それが何のことを指すのかは、健太は分からなかった。
だが、今回の夏美の言葉で、心が晴れたのは事実だった。
「ありがとう、二ノ宮さん。おかげで決意することが出来たよ」
「そうですか……お役に立てて嬉しいです」
そして夏美は、いつも通りの笑顔で健太にそう答えた。
「じゃあ……僕はそろそろ教室に戻るとしようかな」
「今から言いにいくのですか?」
「まさか……まだその時じゃないと思うんだ。けど、近いうちに、僕は想いを伝えてみるよ。後悔
しないためにも、ね」
(カラッ)
図書室の扉を閉め、健太は出て行った。
「……」
その場には、夏美一人のみが取り残されていた。
目線の先には、健太が先ほど出て行った扉。
「……私の初恋も、これで終わりですね」
夏美は、短く、そう呟いた。