その237 決意 1番目
次の日。
前日の雪が嘘のように溶けるような、雨が降っていた。
昨日までは積もっていた雪も、今日は水たまりへと変貌を遂げていた。
「……雨か。なんだか俺達の心まで冷たくなりそうな雰囲気だな」
「何言ってるのさ?」
いきなり意味不明なことを言い出した吉行に、健太がそう突っ込みを入れる。
「いやぁ、人ってのは、何となくそう言う風な言葉を言いたくなる時があるのさ」
「……何となくうざいからやめろ」
今度は大貴から突っ込みが入った。
「な、何を!?」
「……吉行。キャラ変えはよくないわよ」
「キャラ変え?何の話?」
「なんでもないわ」
美奈は、何か意味ありげなことを言った気がした。
しかし、本人は固く口を閉ざしてしまったので、何も聞けなかった。
「呼ばれて飛び出てジャジャ~ン!」
「いや、誰も呼んでないからね」
「うわぁっ!お前、いきなり出てくんなよ!!つか、久しぶりだな」
健太達の目の前に現れて来たのは、大地だった。
大地は、十数年前に死んでしまった男子生徒の霊……簡単に言ってしまえば、幽霊なのだ。
「……あれ?由美さんは?」
大地が現れるのなら、由美を現れるはず。
そう考えた健太は、大地に尋ねた。
すると、大地は言いにくそうに、口を開いた。
「由美は……ちょっと前に成仏しちまったよ」
「……え?」
いきなりのカミングアウトに、健太達は声も出ない。
構わず、大地は言う。
「いきなりのことだったから……俺は何も言えなかった。けど、俺達幽霊の末路ってのは、結局は成仏
するってことだから……出来ることなら、早くこの世で未練を亡くして、天界に昇りたいってのは
あるかな」
「……そっか。柊はもう……」
吉行が、暗そうな顔をして呟く。
「何言ってんだよ吉行!こういう時こそ明るくしなきゃ!お前はその為の人材なんだからな!」
「俺の役目は、周りを明るくすることなのか?」
「そうよ!吉行がいることで、楽しくなるのよ!」
何故か説得口調で、美奈は吉行に語りかける。
その語りかけに、吉行の体は武者震いを始める。
「俺は……俺は!この学園において必要な人材なんだ!!」
「正確にはこのクラスにおいてだけどね」
訂正を入れるのを忘れない美奈。
「なんだか……この所1-Bがカオスな展開になることが多い気がする……」
「マコも思った?実は僕もだよ」
呟くマコに対して、答える健太。
かなえも同様の意見なのか、言葉には出さずに頷いていた。
「さてと。それじゃあそろそろ外川も来る時間だろうし、準備を始めますか」
「準備って……何の?」
「まぁみてなさい」
(カラッ)
「え?」
美奈は、少し扉を開けて、そこに黒板消しを挟んだ。
「って、典型的な教師イジメの前触れじゃないか!!」
「何言ってるのよ。コミュニケーションよ」
「全然わけわかんないから!今すぐ取った方が……」
健太がそう言った時には遅かった。
「お~い、なんだか騒がしい……」
(ポトッ)
外川の頭に、黒板消しが着弾。
黒かった髪は、少し白く染まっていた。
「……誰がやったー!!」
「私よ」
「自供早!?」
割と美奈の自白は早かった。
「後で職員室に来い。いいな?」
「分かってるわよ。気が向いたら行くわ」
「気が向いたらじゃなくて絶対だ!!」
こうして、今日も騒がしい日々が流れていく。
だが、健太は内心、それどころではなかった。