その234 否定 5番目
「僕が、愛をフッた?」
「そうだよ!!」
直樹にそう指摘されるも、健太自身としてはそんな記憶がない。
なので、反論するのならいくらでも出来た。
しかし、健太は反論しなかった。
例え自分で愛のことをフッた記憶がなかったとしても、『あの言葉』が、それだったとしたら?
「……僕は、無自覚の内に愛のことを、フッていた?」
「そういうことだよ……お前自身は愛ちゃん自身には何も言わなかったが、愛ちゃんにとってそれは
フられたも当然なんだよ!!」
「……ところでどうして僕が言った言葉を知ってるんだ?」
健太は、そこでそう言う疑問を持った。
何故あの日の健太と愛の会話を知っているような口ぶりをするのか?
健太は多少ながら気になっていた。
「何故と問われれば、そこにいたからとしか言い様がないな」
「あの日……病院にいたってこと?」
「そうだ」
何故直樹が病院にいたのかと言う質問はしなかった。
何故なら、その質問は両者にとって意味をなさないものだからだ。
「で、だ。今日はテメェを……」
「え?」
そこで止められる直樹の言葉。
そして。
(バキッ!)
「!?」
突如健太を襲った、右頬の痛み。
健太は、直樹に殴られたのだ。
殴った本人である直樹は、
「テメェを……ぶっ飛ばしに来た」
酷く冷たい目で、健太にその言葉を突き付けた。
銃口を額に突き付けられたかのように、健太の体は動くことを躊躇っていた。
「……」
黙って健太の顔を見る直樹。
健太は、その顔を直視する形となった。
「テメェは……愛ちゃんのことなんか何も考えちゃいなかったんだな!!」
「違う!そんなことはない!」
直樹からの攻撃を、バックステップでかわし続ける健太。
しかし、その避け方では、限度があった。
「なら、愛ちゃんのこと何かどうでもいいやとか考えてたんだろ!!」
「それも違う!僕は愛のことを大切な友達だって思ってた!!」
「友達?笑わせてくれるわ!本当にそうなのかよ!!」
「何が!言いたいんだよ!」
(ガシャン)
「!?」
やがて、健太の体はフェンスに当たった。
それはつまり、戦闘ステージがここまでであることを意味していた。
もっと簡単に言ってしまえば、行き止まりだった。
「テメェにとって、『早乙女愛』と言う人物は、単なる幼馴染みと言う位置付けなんだろ!?そこに、『大切な友達』ってランクはついてねぇんだろ!?」
「何を言ってるのさ!」
(ドゴッ)
「いって!」
何とか直樹の攻撃を避けた健太は、直樹が怯んでいるうちにその場から離れて、体制を整える。
「ちっ!ウザイ男だな!」
直樹は悪態をつくと、一旦健太とは距離を置く。
「テメェに反論することが出来るのか?」
挑発するような直樹の言葉に、
「……なら、言わせてもらおう」
健太は、反論をし始めた。