その233 否定 4番目
そして、指定された時刻になった。
健太は、時間ぴったしに屋上に来たのだが、そこに人影は見えなかった。
「……遅れるなって言ったのは、直樹ね方じゃなかったっけ?」
健太の声に返事を返す者は誰もいない。
いや、もしかしたら声が届かない範囲の何処かにいるのかもしれない。
そう考えた健太は、直樹を探そうとして……その行動を止めた。
「いや、探すだけ無駄だろうから、やめとこう」
直樹を探しに行った所で、自分の体力が削られるだけだと思った健太は、屋上で気長に待つことにした。
「……」
(ペタン)
床に座り、健太は空を見上げる。
やはり降っている雪は粉雪のまま……かと思いきや、どうやら積もるかもしれないほどの雪にはなっていた。
「降雪術式……恐るべし」
誰に言うのでもなく、呟いていた。
「……直樹がわざわざ学校に来たってことは、愛のことなんだろうな」
直樹がこの学校に来た理由を、健太はうっすらと理解していた。
その理由を作ったのは……紛れもなく自分自身だったからだ。
「……言うまでもなく、あの日のことだよね」
健太が呟く、『あの日のこと』。
それは、静香のことをフッた、あの日のことだろう。
しかし、健太にとって、愛をフッた覚えまではなかった。
「どういうことなんだろう?」
鈍感な少年というのは罪な物なのかもしれない。
と、そのときだった。
(バン!!)
「?」
突如、屋上の扉が開かれる。
そして、そこから入って来たのは、
「ハァハァハァ……死ぬかと思った」
「……何で息切らしてるのさ、直樹」
何故か息を切らして入って来た、直樹の姿だった。
ここまで走って来たのか、全身汗まみれなのが、服の上からでも把握できた。
「ちくしょう……何だよあの生徒会の副会長……俺のこと見つけたら、すぐさま生徒会室に直行だ
なんて……なんて生徒会だ」
「……その生徒会の中に、僕もいるんだけど」
「何!?」
またもや直樹は驚きを見せた。
「……お前、なかなかやるな」
「いや、そこまで驚くことでもないし、いざとなれば、僕だって直樹を突きだせるからね」
「さっきも言ったが、財前様と呼べ!!」
「呼びたくないから……」
健太は、直樹のことを苗字で、しかも『様』付で呼ぶことをかなり嫌っていた。
「それよりも、今日はお前に話があるから、ここにやって来たんだ!!」
「だから、その話ってなんなのさ……早く話してくれよ」
いい加減に直樹の話が聞きたかったのか、健太はその話を聞くことにした。
「お前に今日俺がする話。それはな……」
「それは?」
直樹は、そこで言葉を一旦止める。
健太は、直樹の次の言葉を待つ。
そして直樹は、その言葉を、放った。
「お前がつい先日にフッた、早乙女、愛ちゃんについてだ……!!」