その230 否定 1番目
その日、関東でも珍しく、雪が降っていた。
と言っても、北海道とかのドカドカと降ってくるものではなく。
本当に、粉雪みたいな感じの雪であった。
「健太!雪だぜ雪!!」
「う、うん……雪だね」
「積もったら、雪合戦が出来るぞ!!」
「あのね……」
高校二年生にもなって、吉行が雪を見てはしゃいでいた。
そんな姿を見て、健太は呆れずにはいられなかった。
「雪って言っても、粉雪だよ?積もるかどうかまでは……」
「どうしたの?健太君」
後ろから声をかけられる。
その声に、健太は少しだけ体をビクッと震わせていた。
「……?」
その様子に、かなえは少し驚くが、
「ああ……吉行が今日の雪ではしゃぐものだから……」
という健太の言葉を聞いて、すぐに気のせいだと解釈した。
「確かに、ここ最近では雪なんて降ってなかったからね……はしゃぐのも無理はないかな」
「いや、僕達高校一年生だから、それではしゃぐって言うのもどうかと……」
「あら。そうでもないわよ?」
突如現れた美奈に、今度こそ健太は驚いた。
それはかなえも同様だったらしく、体が跳ね上がっていたらしい。
「あなただって、もし自分の好きなものが目の前に現れて、好きにしてもいいですよなんて言われたら、はしゃぐじゃない?」
「はしゃぐと言うか……喜ぶ?」
「それと同じよ」
美奈は、まるで哲学でも語るかのような口調で、二人にそう言った。
「そ、そうなのかな……?」
美奈の言葉には、どこか人を納得させるような力があった。
同時に、納得させない力もあるのだが。
「でも吉行。残念ながら、この程度の雪では積もることはないわよ」
「なん……だと」
四つん這いになって、吉行は無念そうな顔をする。
「けど、一つだけ方法はあるわ」
「え……あるのか!?」
「ええ」
「……何か始まってない?」
「……そうだね」
目の前で突如始まった謎の演技に、健太とかなえは、反応出来なくなっている。
そんな二人を―――もとい、その他のクラスメイトすらも置いていくかのように、二人の演技は続いた。
「貴方の夢を叶える一つの方法……それは」
「それは……?」
「降雪術式よ!!」
「こっせつ……ちゅうせき?」
「違うわよ。降雪術式よ」
最早訳が分からなくなっていた。
「説明しよう。降雪術式とは、日本政府が極秘で行っていた、魔術による世界征服計画の途中で出来た副産物であり、昔々に発生したノアの方舟事件の状況を参考にして組み上げた、淑之作の軍事用の秘密兵器よ」
「いや、雪とノアの方舟とどう関係があるのさ?大体、日本政府が魔術で世界征服って点でおかしいし、そもそも淑之って誰!?」
と、健太が美奈の言葉の一つ一つに突っ込みを入れていく。
ちょうどその時に。
(ガラッ)
「……何をしていますの?あなた逹は」
夕夏が入ってきた。