その228 急変 6番目
「……」
健太は病室から出た後、愛と静香の母親がすぐに部屋に入って行った。
それを確認した健太は、静香の病室から離れて、病院の中庭にやって来ていた。
「……どうして、あんなこと言ったんだろう?」
その口調は、まるで後悔でもしたかのようなものであった。
「……僕の好きな人、か……そんな人、僕にはいなかった気がしたんだけど」
静香に先ほど言った、『自分にも好きな人がいる』という感じのセリフ。
健太は、無意識のうちにその言葉を発していたと言うのだ。
「それじゃあ、僕の好きな人って……」
呟きかけて、ふと空を見上げる。
相変わらず、太陽が青い空の中の一点でのみ輝いていた。
それも、ご丁寧に目を射抜くような、そんな強くて鋭い光線を放つかのように。
「こんな所にいたんだ、健太」
その時。
健太の所にやって来た、一人の少女。
言うまでもない。
彼女は、愛だ。
「愛……どうしてこんな所に?」
「それは私のセリフだよ。静香の部屋から出て行ったと思ったら、すぐにどこかへ行っちゃうんだもん」
「ごめん……」
健太は、そのことについては謝った。
愛は、その謝罪の言葉を聞いた後に、
「それで、静香と何かあったの?」
「え?」
健太は、まさかそんなことを聞かれると思っていなかったので、そんな声を出してしまっていた。
同時に、そんな質問をされるのではないかと、心では考えていたことに気づく。
「静香の目が赤かったし、少し泣いたような跡があったから……何より、少し無理してた」
「……」
「……何かあったの?健太」
問い詰めるような口調。
そして、真剣なまなざし。
健太は、この質問に対して一切の冗談は通じないことを悟った。
「……僕は、静香さんをフッたんだ」
「……え?」
今度の驚きの声は、愛の物であった。
「なん、だって……?静香を……フッた?」
「……」
無言である代わりに、
(コクッ)
健太は首を縦に振った。
「え?ということは……静香に告白された?」
「……うん。そして、僕は断ったんだ」
今度は、はっきりとその事実を述べた。
「え……でも、どうして……?」
愛は、何が何だかまったく分かっていない様子であった。
そんな愛に説明するように、健太は言った。
「……僕には、好きな人がいるから」
「!!」
その言葉は、愛を驚かせるには充分な言葉であった。
今まで健太の口よりそんな話を聞いたことのなかった愛にしてみれば、それはかなりショッキングなことだった。
同時に、目の前でこのようなことを告げられたということは……少なくとも、その人物は自分ではないことを悟らされた。
「……そっか。健太にも好きな人が……」
「……うん。その人のことを想うと、心臓がざわめくんだ……こんな気持ち、初めてだよ」
「……」
愛は、黙って健太の話を聞くことにした。