その223 急変 1番目
とある日のことだった。
いつものように、健太は学校に行っていて、その帰りの話。
「いやぁ、何でいきなりテストなんてやらせるんだよ……」
「本当だよね……抜き打ちテストなんて、もうやりたくないよ」
本日、健太の学校では抜き打ちテストが行われたらしい。
それで、吉行がかなり落ち込んでいるということだ。
「おかげで……何の勉強もしてなかった俺は……」
「……お疲れさま」
この吉行の反応から分かるように、どうやら吉行の点数は芳しくない様子である。
そうして、二人して本日の抜き打ちテストについて話していると。
(ピリリリ)
「ん?」
誰かの携帯電話が鳴る。
「おい健太。お前の携帯にだぞ?」
「え?僕?」
まさか自分の携帯電話が鳴っていると思わなかった健太。
カバンのチャックを開け、その中から携帯を取り出すと。
「本当だ……えっと、誰だ?」
画面には、見知らぬ電話番号が表示されていた。
「知らないのか?」
「うん……身に覚えはない電話番号だね」
「ま、とりあえず出てみればいいじゃねぇか」
「そうだね」
吉行にそう言われたのもあって、健太はその電話に出てみる。
(ピッ)
「もしもし?」
『あっ!よかった……この電話番号で合ってたんですね』
「あの……どちら様ですか?」
聞き覚えのない、女性の声が聞こえてくる。
声の感じから言って、40代と言った所だろうか。
『私は、静香の母です』
「静香……もしかして、病院で入院中の、静香さんですか?」
『はい』
電話の相手は、何と静香の母親からだった。
まさかの出来事に、健太は驚きを隠せずにいた。
「それにしても、どうやって電話番号を?」
気になって、健太は尋ねる。
すると。
『何かあった時の為に予め静香から聞いておきました』
「あ、そう言えば……」
健太は、前に静香の見舞いに行った時に、携帯電話の番号を教えてあったことを思い出した。
そして、気付く。
「電話してきたってことは……何かあったんですか?」
静香の母親は、何かあった時の為に、電話番号を聞いたと言った。
そして、現に今、その番号に電話をかけている。
ということは、つまり。
「(静香さんの身に……何かが起きた?)」
ということになる。
『そうなんです!実は……!』
「……実は?」
なかなかその先を言おうとしない、静香の母親。
健太は、
「ど、どうしたんですか?」
と、思わず尋ねてしまっていた。
『……落ち着いて話を聞いて頂けますか?』
美咲の母親は、低い声でそう尋ねてくる。
健太は、
「はい」
肯定の言葉を口にする。
だが、内心何か嫌な予感がするのを感じていた。
『静香が……静香の病状が……!!』
「………………………………え?」
間を空けた、驚きの言葉。
静香の母親の言葉を聞いた時、健太は、全身から力が抜けた。
右手でしっかりと握っていた携帯電話が、音をたてて真下に墜落する。
「ん?どうしたんだ?健太」
何も事情を知らない吉行は、健太にそう尋ねる。
「……僕、行かなきゃ!!」
「えぇ?!ちょっと待てよ、おい!!」
(ダッ)
吉行の方を見ずに、健太は足に力を込めて地面を蹴ると、そのまま目的地へと向かう。
地面に落とされたままの携帯電話は、無情にも通話が途切れていた。
「何なんだよ?一体……」
吉行は、健太の携帯電話を拾い上げると、健太が走って行った道を見る。
そこにはもう、健太の姿はなかった。