その220 居場所 5番目
次の日。
美咲が朝目覚めると、すでに健太はいなかった。
変わりに、テーブルの上に、置手紙らしきものが置いてあるのを発見した。
その横には、本日の朝食なのか、パンが2枚程皿の上に乗っかっていて、その横の皿に、
ハムエッグが盛り付けられていた。
「手紙?」
裏になっているその手紙を、表にする。
(ピラッ)
そこには、こう書かれていた。
『おはよう、美咲。
朝食は準備しておいたから、きちんと食べてね。
……答えは、出せた?
もし出せたのなら、今日の夜にその答えを聞くから。
健太より』
「……お兄ちゃん」
健太は、今日中には答えを見つけてほしいと考えているらしい。
なので、その邪魔にならないよう、朝は早めに学校に向かったのだ。
「……私が居るべき居場所。それは……」
美咲がとれる選択肢は二つ。
一つは、この家に残ること。
一つは、月宮家に帰ること。
どちらを取るかによって、これからの生活はガラリと変わってしまうだろう。
「……私は、月宮家の、人間」
本来なら、美咲は月宮家の人間だ。
しかし、今の美咲は、『木村美咲』であることもまた事実なのである。
「……うん、決めた」
どうやら美咲は、答えを出したらしい。
自分の居場所を、選んだらしい。
「とりあえず、朝食食べよう」
そう言って、美咲は皿に置かれたパンを焼き、食べ始める。
なにも塗られていないそのパンは、何の味もしなかった。
「は?美咲ちゃんの父親が現れた?」
「うん。そうなんだ」
学校についた健太は、吉行にその話を出す。
吉行は、美咲の抱える事情を知っているので、すぐに話が分かった。
「それで、健太はどうしたんだよ?」
「……今頃来るなんて無責任だって、追い返した」
「そっか」
吉行は、そんな健太の言葉を聞くと、安心したような顔をする。
「?何でホッとしたような顔をしてるんだ?」
健太が、柔らかい笑みを浮かべている吉行に対して、そう尋ねた。
すると、
「いや、お前らしい行動をしたなって思ってよ」
「僕らしい?」
吉行の言葉の意味がイマイチ分かっていない様子の健太だったが、それ以上は深く詮索しなかった。
「じゃあ、結局の所、美咲ちゃんは現状維持ってことでいいんだな?」
「いや、そう言うわけじゃないんだ」
「ん?」
よく理解していない様子の吉行に、
「答えは、美咲自身に出してもらおうと思って……うちに残るのか、父親の元へ戻るのか」
「……」
「……ねぇ、吉行」
「なんだ?」
健太は、吉行に尋ねた。
「どっちが正解で、どっちが不正解なんだろう……?」
吉行は、その質問に対して、次の様に答えた。
「どっちが正解で、どっちが不正解なんて、ないんじゃねえか?」