その218 居場所 3番目
「今の今まで美咲のことをほったらかしにしておいて、そして今になって美咲を返せ?冗談を
言うな!!」
「!!」
美咲はこの時、健太の顔を見ていた。
その健太の顔は、いつもの顔とは違う、怒りの表情だった。
こんな顔、今まで見たことのなかった美咲は、驚きに満ち溢れていた。
同時に、自分の為にここまで怒ってくれるのか、と喜びも感じていた。
「あなたが今まで美咲のことをほったらかしにしてたのに、それ相当の理由があったのなら
話は分かる。けど……あんたのその理由って、結果的に言えばただの浮気じゃないか!!」
「なっ!ただの浮気って……」
「そうだろ!!」
今の今まで健太は怒ったことなどあまりなかった。
だが、この時は、健太にとっても怒るべき時の一つなのだ。
「あなたのその勝手な行動のせいで……美咲はどれだけ孤独の時を過ごしてきたか、考えた
ことあるのか!!」
「け、けど、母さんもいて……」
「その母親にも甘えられない生活をして、周りには誰も甘えられる人がいない……そんな生活
をし続けて来た美咲のことを、あなたは考えたことあるのか!!」
「そ、それは……」
健太の言葉は、美咲の父親の胸を突き刺すように、的確なものであった。
なので、美咲の父親は反論することも出来ない。
「あなたじゃ美咲を幸せに出来ない……あなたのような自分勝手に生きる人間には、美咲
どころか、人一人幸せに出来ることなんて出来やしないんだ!!」
「勝手な事を言うな!!言わせておけば言いたい放題言いやがって!!」
父親も、逆切れする。
美咲は、いよいよ混乱し始めていた。
「俺だって、悩んだ末の答えだったんだ!一生懸命悩んで、それでも美咲を連れて行くのは
よそうと思って……」
「その前に、もっと考えることあるだろ!!」
健太は、父親のその態度に、反論をする。
「あなたは何故、美咲の母さんと別れた?」
「それは、もう愛せなくなったから……」
「それが自分勝手って言うんだよ!!」
「!!」
父親は、驚きの表情を見せる。
子供にここまで言われたのは初めてだから、と言うのもあるのだろう。
「自分が愛した人なら、最後まで愛しつくせ!!それが出来ない奴に、人を愛する資格なんて
あるわけがないんだ!!」
「な……そんなの余計なことだろ!!」
「じゃああなたは、美咲の母親が何で居なくなっちゃったか、知ってるか?」
「いや、知らないな……」
父親がどもる。
すると、健太はつきつけるように、言った。
「あなたと別れたのが原因で、ストレスを抱えて、悲しみのあまりに病気になって死んだんだ!!」
「お、お兄ちゃん!?」
まさかその事実を告げられるとは思ってなかったので、さすがの美咲も叫んでいた。
「そのことを今まで知らなかったなんて……あなたは、何処まで愚かなんだ!」
「……」
先程までは何とか反論しようと試みていたが、もはやそれすらも出来ない程に追い詰められていた。
「……とにかく、今日は帰ってください。もし、また来たいと言うのでしたら、この電話番号に電話してください。だから、あなたの電話番号も教えてください」
「……いいだろう」
美咲の父親は、自分の携帯電話の番号をメモ帳に書く。
健太も、自宅の電話番号を書き、互いに交換した。
「……それじゃあ、今日はこれで失礼させてもらうよ」
美咲の父親は、そう言葉を言い残して、健太の部屋を出た。