その217 居場所 2番目
「どうしたの?美咲」
驚愕の表情を浮かべる美咲に、健太は尋ねる。
だが、美咲は口をパクパクさせたまま、何も答えられないようだった。
「久し振りだな……美咲」
男が口を開く。
美咲の体は、驚いたかのようにはねた。
「……美咲?」
何も答えない美咲を心配するかのように、健太は言う。
美咲は、やがてその男のことをこう呼んだ。
「……お父さん?」
「……え?」
その一言は、この場を凍らせるにはちょうど良いものであった。
事実、健太は言葉を失ってしまっていた。
美咲が『お父さん』と呼んだ男は、笑顔でこう答えた。
「そうだよ、美咲」
「……本当に?」
健太が美咲に尋ねる。
美咲は、黙って首を縦に振った。
「……けど、何で今頃?」
そう。
健太の頭の中に始めに浮かんだ疑問は、それだった。
確かに、目の前には美咲の父親がいる。
だが、美咲の父親は、浮気が原因で前の母親と別れて以降、連絡が取れなかったはずだ。
もはや今では家族と呼べるのかどうか怪しいくらいだ。
それなのに、どうして今頃になって現れて来たのだろうか?
その目的は?
その意味は?
それ以上考えると、頭がパンクしてしまうかも知れないほど、健太は考える。
「あの後、母さんが死んでしまったことを、友人を通じて知った……だから、せめて美咲だけ
でも引き取ろうと思ったのだが……」
「美咲の行方が分からずに、今日のこの日までかかってしまったってこと?」
(コクッ)
美咲の父親は、黙って頷いた。
「まさか君の家に養子として迎えいられているとは思ってなかったからね……それじゃあ、
君に言おうか」
「何をですか?」
目の前で起こっている事態の収拾がつかない美咲は、健太と父親のことを交互に見る。
そんな美咲を無視するように、やがて父親は言った。
「美咲を、返してくれないかな?」
健太は、そんな父親に答える。
「お断りします」
健太は、ハッキリとそう答えた。
「なっ……!!」
美咲の父親は、驚いた表情を浮かべる。
構わず、健太は言った。
「理由は二つ。一つは、あなたが余りにも突然に来たので、信頼出来ないこと。二つ目は……あなたが許せないから」
「ゆる、せない?」
分からない、と言った顔で、父親は尋ねる。
そんな父親の態度を見て。
(バンッ!)
健太は、右手で靴箱を殴る。
この行動が意味すること。
「ふざけるな!!」
すなわち、健太が遂にキレたのだ。