その216 居場所 1番目
三学期の始業式が始まり、数日が経過した。
そんなとある日のことだった。
「ふぅ……」
いつものようにアパートの自分の部屋に帰って来た健太は、溜め息をついた。
「どうしたの?お兄ちゃん」
「いや、なんでもないよ。何だか今日は妙に疲れただけだから」
事実、この日の健太は忙しかった。
昼休みに生徒会の集まりがあり、放課後は遅くまで部活。
終いには、本日は健太が料理担当の日だったので、買い物に行く羽目に。
「御苦労さま……お兄ちゃん。なら、私が慰めてあげる!」
(ギュッ)
笑顔で健太に抱きつく美咲。
健太は、そんな美咲の行動を、素直に受け入れる。
何というか、心が暖かくなったからだ。
「はは……相変わらず美咲は甘えん坊だね」
「むぅ……お兄ちゃんだから甘えられるんだよ?」
「……そうだったね」
美咲には聞こえないくらいの声で、健太は呟く。
美咲には、甘える人が健太しかいない。
今の父親母親は、アメリカにいる為だ。
「……しかし、寒いね」
冬になってから1か月が経過している今日この頃。
日に日に寒さは増していき、本日の最高気温は13度。
結構寒い日なのである。
「そうだね。でも、今は暖かいよ♪」
「そりゃあ僕に抱きついてるからね……暖かいに決まってるよ」
「もう、お兄ちゃんったら空気読もうよ」
「??」
何のことか分からなかった健太は、頭の中にハテナマークを作り出す。
と、その時だった。
(ピンポーン)
「「ん??」」
健太の部屋のチャイムが鳴る。
ただ、健太は不審に感じた。
「こんな時間に……誰だろう?」
健太の部屋には、普段は来客は来ない。
たまに吉行達が遊びにきたりするが、それまでだ。
しかも、こんな夜に来るなんてことはないだろう。
……一回あったらしいのだが、その可能性はあまりにも少なかった。
「となると……」
「ますます分からないんだけど……」
二人は、この来客の正体に頭を悩ます。
そうしている内に。
(ピンポーン)
二度目のチャイムが鳴る。
「は〜い」
とりあえず健太は、ドアを開けることにした。
(ガチャッ)
「……どちら様で?」
その人物は、健太にとってまったく面識がない人物であった。
鼻の下に生えている、短いひげ。
全身黒のスーツ姿のその男性は、まさしくサラリーマンと言ったような格好をしていた。
メガネをかけている所が、結構いい感じを醸し出していた。
「あの、ここに……」
男が何かを言おうとしたその時。
「……え?」
美咲が、驚愕の表情を浮かべながらその男性のことを見ていることに、健太は気づいた。