その215 少女が抱く過去の話 10番目
「……言わなくていい。どうせ、可哀そうだなって思ったでしょ?」
「!!」
図星だった。
今までのかなえの話を聞いて、健太は『そう思わずには』いられなかった。
しかし、その反応を受けると、かなえは分かっていたのだ。
だから、健太にその先を言わせなかった。
「確かに嬉しいよ……私の話を聞いて、同情してくれるのは」
「そんな……同情なんかじゃ……」
「……けど、そんな時だった。転校先の学校で美奈に出会った時に、この話をするように
言われたの」
「え?」
まさか、美奈もその話を聞いているとは思わなかったので、健太は驚きを見せた。
と、同時に。
美奈ならどんな反応をしたのだろうか、と気になった。
「それで、美奈はどんな反応を見せたと思う?」
「さ、さぁ……どんな反応をしたの?」
健太は、分からなかったので、かなえに尋ねる。
すると、かなえは若干笑ったような感じで。
「『どうでもいいじゃない、そんなこと』って言ったのよ?」
「……はい?」
まさか、美奈がそんなことを言っているとは思わなかったので、健太は思わず聞き返していた。
それほどまでに、美奈の反応と言うのは、予想の斜め上を行く物だった。
「『あなたの過去の話を聞いたけど、そんなの所詮過去にすぎない。大事なのは、今のあなた
なのよ。今のあなたならどう生きるか……それを考えなさい』って」
「あ……」
確かにそのとおりだと、健太は思った。
過去に起こってしまったことを嘆いてしまっても仕方がない。
大事なのは、その過去を思い返して、未来へと足を進めることにある。
人間、誰しもそう言った経験をするのだ。
それは、健太自身が一番分かっていたことでもあった。
大切な人を失う悲しみを知っているからこそ、その答えを聞いて、なるほどなと思った。
「美奈さんも、いいこと言うんだね」
「美奈はそう言う人なのよ……けど、この言葉は、私にとって衝撃的な物だった」
初めて美奈にそう言われた時。
かなえは言いようもない衝撃を感じたという。
「過去のことなんてどうでもいいだなんて……前を見る美奈らしいよね」
「そうだね」
健太は、かなえの発言に頷いて見せる。
「乗り越えなければいけない悲しみがあることを……私は教わった」
「……うん」
静かに、健太は頷いた。
「……ねぇ、健太君」
「何?かなえさん」
かなえは、健太に尋ねる。
「……ちょっとの間、胸を借りても、いい?」
「……いいよ。泣きたいなら、なけばいい。そうすれば、気分も良くなるだろうから」
「……うん」
了承を得ると、かなえは健太に抱き着く。
そして、そのまま泣き出した。
暗闇の中に、影が二つ。
それは、とある冬の日の話しだった。
次話より新たな話へと変わります。