その212 少女の抱く過去の話 7番目
「おいしかった〜」
「そうね。ここのハンバーグ、本当においしかったわ」
「ステーキもなかなかだったぞ」
食べ終わり、一同はしばらく席について休憩していた。
「それにしても、今日の研究所は大変だったな……」
「どうしたの?」
父親が話し始めた所で、かなえが気になって話に加わる。
「かなえも知っての通り、私達は研究所で働いてるんだけど……」
「俺達の研究に対して猛烈に反対する者がいるんだよ……」
「研究って……何の研究?」
かなえは尋ねる。
父親は、少し笑顔になって、答えた。
「それはな、家庭から発せられる二酸化炭素を吸収する、人工葉緑体の研究だ」
「人工……ようりょく、たい?」
何のことか分からず、思わずかなえは聞き返す。
その反応を待ってました、と言わんばかりの顔で、父親と母親は語りだした。
「俺達は、いろんな所で二酸化炭素を出しまくってるけど、そのかわり木々達を無駄に切り
倒し過ぎた」
「その為に、二酸化炭素を吸収するものがなくなりつつあるのよ……けど、この研究が成功
したら、そんな問題も解決出来ることとなるわ」
「どんな風にするの?」
かなえは、更に質問を重ねる。
「具体的に言えば、家に一個、花型のそれを置きたい所なんだが、そうもいかないからな」
「だから、とりあえずの所、各街にひとつ、少し多めの木型を作る予定だ」
ちなみに、葉緑体は、二酸化炭素を吸収して、酸素やその他の気体を排出する、光合成を行う。
現在の研究では、その構造については式などには表されているものの、実現はされていない。
もし、かなえの両親がこの研究を完成させたとしたら、一躍有名になるだろう。
「この研究に、俺達のかけられる情熱をすべて懸けてるんだ」
「絶対に成功させたいってわけ……最も、研究自体はあまり進んでないけど」
母親が、残念そうにそう言った。
なので、かなえは。
「そんなことないよ!」
「かなえ……?」
「パパにママは、人の役にたちたいと思って、その研究を続けてるんでしょ?」
「あ、ああ……そうだな」
かなえが真剣な顔でそう言ってきたので、思わず両親はたじろいだ。
「なら、それでいいじゃん!!」
かなえがそう父親に言った。
その時だった。
「……ん?」
(ガタッ)
誰かが突然立ち上がる。
「……あ」
かなえは、何かに気づいた。
その人物とは、かなえが目線を感じた、その人物であった。
しかし、その人物の目線の先に、かなえはいなかった。
「……パパとママのことを見てる」
「ん?どうした?かなえ」
「え?ううん、なんでもないよ」
務めて、かなえはなんでもないことをアピールする。
しかし、その人物は、段々とかなえ達の方へと近づいてくる。
「さて。それじゃあそろそろ帰るとするか」
そう父親が言って、席を立った。
瞬間。
(ダッ!)
「え?」
突如その人物は走り出す。
そして。
(ドンッ!)
「がっ……!!」
父親にぶつかってきた。
その時、父親は苦しそうな声を出す。
その人物が父親より体をどかすと……。
「い……イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
腹にナイフが刺さった、父親の姿があった。