その207 少女が抱く過去の話 2番目
開店時間がやってきて。
ようやっとかなえ達は遊園地の中に入ることが出来た。
「うわぁ……人がたくさんいる〜」
中は、人がたくさんいて、あまり自らを置くスペースがなかった。
みな、目的こそ別にあるのだが、どうやらこの遊園地に来るらしい。
「そうね。さすがは今一番の遊園地って所かしら?」
「そうだな。本当に、ここの無料チケットが当たってよかったな」
そう。
かなえ達はチケットを買ってここに来たわけではない。
実は、この遊園地に来る何日か前に福引を引いたのだが、その時に偶然にも当たったのが、
この遊園地の無料チケット三人分だったというわけだ。
「運がよかったわね、かなえ」
「うん!」
笑顔でかなえは頷いた。
「よぉ〜し、今日はこの遊園地の乗り物をすべて乗りつくすぞ!」
「お〜!」
「あなた達、それにはどのくらい時間がかかると思ってるのよ……一日じゃ回れないわよ?」
どの遊園地でも大抵そうなのだが、一日で回れたという経験がないのもまた、遊園地の特徴
であると言えるだろう。
この遊園地も例外ではなく、それだけの大きさを誇っていた。
「かなえ。一つだけ言っとくけど、迷子にだけはならないでね。広いんだから」
「は〜い!」
かなえは屈託のない笑顔でそう言った。
「……クスッ。私達の娘ながら可愛い子ね」
「だな。将来が楽しみだ」
かなえに聞こえないような声で、二人はそう言った。
そして、入って1時間くらい経った時だろうか?
「……あれ?」
かなえは現在、迷子になっていた。
「ママ?パパ?」
呼びかけてみるが、いない。
当然といえば当然なのだが、そんなことにかなえは不安を覚えて来た。
「……ママー!パパー!!」
叫んでみる。
しかし、出てくる気配はない。
そもそも、何故かなえは迷子になってしまっているのか?
その理由を語ってみると、以下の通りになる。
両親は、トイレに行くと言って、かなえにトイレのすぐ近くにいるようにと伝え、入って行った。
言われた通りに待っていたかなえだったが、その時偶然にもすぐ近くを風船を持った犬の着ぐるみが通っていくのを見つけた。
その犬を追いかけて風船をもらい、ふと辺りを見渡したら、見知らぬ場所にいた、ということだ。
「何処〜?ママ〜?パパ〜?」
やがて疲れたのか、叫ぶことをやめた。
「何処にいるんだろ……」
言い様のない不安を、かなえは感じていた。
この広い空間の中で、これだけの人が集まっていると言うのに、自分はこの場所で一人きり。
当時小学生であるかなえには、十分過ぎる程に、不安どころか恐怖すらも感じていた。
「どうしたんだい?そこのお嬢さん?」
「!!」
その時。
ただでさえ不安を感じていたかなえに対して、見知らぬ男が話しかけてきた。
その男は、明らかに裏で何かを考えているような、そんな男であった。
「な、何?」
恐怖で足が動かない。
男は、そんなかなえの様子を確認すると、醜い笑顔を見せながら、かなえに近づく。
「迷子かな?そしたら、お兄さんがご両親の所まで送り届けてあげよう」
「い、いや……」
かなえは後ろに下がる。
男が近づく。
「それとも。お兄さんと楽しいことでもする?お兄さん的にはそっちの方がいいかな?」
「や、やだ!!」
(ダッ!!)
その場を逃げ出そうとするかなえ。
しかし、男に腕を掴まれてしまった。