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その205 始業式 5番目

アパートを出た健太は、現在夜道を一人で歩いていた。

特に行先があるわけでもなく、ただ単に歩いていた。


「ふぅ〜こうして夜風に当たるのも何日ぶりだろ」


しかし、今は冬。

夜の風と言うと、結構寒いものである。

なので、健太は長そで長ズボン、ジャンパーみたいな物を着てでの散歩となっていた。


「……もう三学期か。時間が経つのって、本当に早いなぁ」


今日までの日々を思い出し、健太は呟く。

思えば、たくさんの出来事が起きた一年間だったな、と昨年のことを思い出し、思った。

オリエンテーション旅行での、熊の襲撃。

マコとの衝撃的な再会。

夕夏との出来事。

文化祭での、かなえとのファーストキス。


「……」


健太の顔が赤くなる。

人生初のキスの相手が、かなえだったことにだ。


「……僕、どうしたんだろう」


改めてかなえの顔を思い出してみると、なんだか心がモヤモヤする。

他の人の顔を思い浮かべても、特にそこまでモヤモヤしたりはしないのだが。

……いや、もう一人いた。


「……静香、さん」


記憶喪失の時に出会った少女、青水静香。

彼女のことを考えるとまた、かなえのことを考えるのと同様に、心がモヤモヤした。


「これは、一体……」


呟く。

モヤモヤの正体を知らないこの少年は、どう晴らせばいいのかも分からなかった。

16年間という月日は、どうやら少年にとっては浅い人生のようだった。


「とりあえず、そろそろ家に帰ろうかな」


そう言って、健太はアパートに戻ろうとする。

そこで、気づいた。


「……あれ、いつの間にこんな所まで来てたんだ」


気づくと、健太は『沢渡橋』の所まで来ていた。


「でも、こんな所に来たって、帰るのが遅くなるだけなんだよな……」

「……あれ?」


その時。

ふと、誰かの声が聞こえたような気がした。


「!!」


その声の主のことを知っているだけあって、誰のことかはすぐに分かった。

しかし、この場において、あまり会いたくない人の声だった。

いつもなら別に話していても全然大丈夫なのだが、今に限り、うまく話せないような気がしたからだ。


「(あんなこと考えてたばかりだから、うまく話せるかな……)」


先程まで思い浮かべていたことを、首をブンブンと横に振ることで振り払い、健太は後ろを振り向いた。


「こんばんは、かな?健太君」

「うん、こんばんは、かなえさん」


そこにいたのは、かなえだった。


「こんな夜に何を?」

「ちょっと散歩がしたくて……健太君は?」

「僕も同じ。何だか奇遇だね」

「そうだね」


笑顔でそう言うかなえ。

その笑顔を見た瞬間。



(ドクン)



跳ねる、自らの心臓。

健太はこの瞬間、確かにかなえに見惚れていた。


「どうしたの?」

「え?あ、いや、何でもないよ……」


動揺しながらのその言葉に、かなえは若干の疑問を感じたが、やがて納得することにした。


「それにしても、こんな夜遅くに家を出ても大丈夫なの?親とかは心配してるんじゃ……」


この時、健太がこの質問をしなければ、一体どういう風な展開になっていたのだろうか。

健太本人は知る余地もなかったが、この質問はかなえにとって、タブーなものであった。

途端に、かなえの顔からは笑顔が消える。

そんなかなえの反応を見て、健太は質問しなければ良かったと、今更ながらに後悔する。

後悔先にたたず、とはこのようなことを指すのだろう。


「……ねぇ、健太君」

「何?かなえさん」

「……私の話し、聞いてくれるかな?」

「え?」


突然発せられたかなえの言葉の意味を、健太は理解出来ていなかった。

しかし、やがてすぐに頷く。

かなえは、そんな健太の反応を確かめると、


「……私の話し、聞いてくれる?」


そう言って、健太に同意を求める。

断る理由もない健太は、黙って首を縦に振った。

そしてかなえは話し出す。

自分が経験した過去を……。
















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