その187 十二月 3番目
「夕飯も食い終わったことだし、それじゃあ勉強再開だ!」
そう意気込んだはいいものの、まったくと言っていいほど手がつけられていない吉行。
「……お前、とりあえず予備校に通え」
「う、うるさい!俺はまだ本気じゃねぇんだよ!!」
智也にそう言われて、心外だと言わんばかりに吉行が言った。
「じゃあ、お前が赤点科目一つでも取ったら、罰ゲームとして逆さ貼り付け。OK?」
「お、おう!受けてたとうじゃねぇか!!」
「あ、死亡フラグ立ったな。これ」
小さく、大貴は呟いた。
「頑張ってください!海田君!」
「おうよ!見てろよ倉木!!」
「倉木さんの健気さが、なんだか悲しく見えて来たのは気のせいかな……?」
「心配するな。俺もだ」
呟くかなえに対して、大貴が同意した。
「まぁそうならないように、これから勉強しようよ」
「おうよ!健太、勉強教えてくれ!!」
「はいはい……」
呆れながらも、健太は吉行の勉強を見る。
さすがは、お人よしと言った所だろうか。
「とりあえず、まずは数学からだね」
こういった調子で、健太達は勉強会を終わらし、いよいよテスト当日を迎えることとなった。
時間は飛び、終業式の日。
「あ、吉行。テストの方はどうだったの?」
「……」
返事がない、ただの屍のようだ。
「……お〜い、吉行〜」
呼びかけてみるが、吉行は返事をする気配を見せない。
「こりゃ本格的にやばいな。テストの結果が壊滅的だったんだろうな、きっと」
大貴は、健太に向かってそう言った。
「あんだけ頑張ったのに……俺って駄目な人間なのかな……」
「大丈夫だよ、吉行は駄目な人間なんかじゃないって。あの日も来てくれたじゃないか」
「……ああ、そうだよな!」
立ち直るまでに必要だった時間、わずかに20秒。
「喜怒哀楽の激しい人間ね」
「あ、あはは……忙しい人だね」
美奈の反応に対して、かなえは乾いた笑いを浮かべながら呟く。
ミサに至っては、馬鹿だなこいつと言ったような顔をして吉行のことを見ていた。
「あ〜、こりゃあ吉行の逆さ貼り付け、決定したかもな」
「あの話、まだ生きてたの!?」
健太の呟きに、吉行が反応する。
しかし、小さな声で呟いたはずなのに、さすがは地獄耳と言った所だろうか。
「さて、もうすぐ先生が来るわけだが……」
「そろそろ覚悟を決めた方がいいかもね、吉行」
「だから、俺は赤点などとってない!!……はず」
最後の方が自信なさげだったのは、きっと気のせいではないのだろう。
そして。
(ガラッ)
いよいよ、吉行の公開処刑の時が迫って来ていた。
「ちょっと待て!公開処刑って何だよ!?」
「誰と話してるのさ、吉行」
「え?な、なんでもない……」