その181 社会科見学 2番目
「へぇ〜でかいな!!」
バスに揺られること約一時間。
途中、吉行が吐きそうになるというトラブルに見舞われながらも、なんとか目的地である
フ○テレビに到着することが出来た。
「あれが球体展望台か……こんなに間近で見たのは初めてだな」
「芸能人に会えるかな?会えるかな?」
「てか、すでに近くにいるだろうが」
芸能人に会えることを望んでいるクラスメイトに対して、大貴がそう突っ込みを入れた。
間近にいる芸能人とは、もちろんマコのことである。
「けどよ、雛森は芸能人としてよりも、俺達のクラスメイトとしての方が強いからな。もう
特別視なんて出来ねぇよ」
吉行の言っていることは間違いではなかった。
つい数ヶ月前までは何の接点もなかった彼らだが、転校してきて同じクラスメイトとして
数ヶ月間を過ごしていく内に、『MAKO』としてよりも、『雛森マコ』としての一面を
よく見て来たので、そちらの印象の方が大きかった。
マコとしては、歌手だからとかの特別扱いを受けない為に、嬉しい変化なのだが。
「そういうものなのかな?」
「そういうものなんだよ」
健太がそう呟くと、吉行がそう返答した。
「と言うわけで、ここからはグループ行動とする。それぞれ四・五人のグループになって
中を周るように」
「先生、ふたグループで合同っていうわけにはいきませんか?」
「構わないぞ」
ミサがそう尋ねると、外川はそれを承諾した。
なので、ミサはいつものメンバーを集める。
「と言うわけで、集合!」
その声に集まって来たのは、健太・かなえ・吉行・マコ・美奈・美空・大貴・夕夏の八人だ。
これにミサを足して、ちょうど九人となる。
人数的にはちょうどよい位だろう。
「ふむ。これならちょうどいいわね。この人数で行動するのはちょっと大変だろうけど」
「ま、いいんじゃないか?大人数で行動した方が飽きなくていいからな」
「だね」
大貴の言葉に、かなえが同意を示す。
「う〜ん、ボク、この前ここに来たばっかなのにな」
どうやらマコとしては暇な1日になりそうだ。
「すでにここに来たのですか?」
本日初めて、美空が口を開いた。
「そうだね。先週辺りに来たばかりかな?」
「なるほど……さすがは今話題の『MAKO』なだけあるね」
「そ、そうかな?……エヘへ」
健太にそう言われて、満更ではない様子のマコ。
「ま、こうして雛森の日常的な一面を見れるという点で、本当にこの学校の生徒で良かったと思えるよ」
大貴は、そう呟いた。
「四月に相馬学園に入学して……もう7ヶ月か」
「時間が過ぎるのは早いものだなぁ」
「老人か、お前は」
遠い目で空を見ながらそう呟く吉行に対して、ミサがそう突っ込みをいれていた。
「さて。俺のギャグセンスが磨かれた所で……」
「磨かれてなどいませんわよ」
ほとんど吉行の発言に覆い被さるように、夕夏は言った。
「なかなかにキツいお言葉で……」
言われた本人である吉行は、涼しげにそう切り返す。
「とにかく、まずは中に入りましょ」
「……あれ?俺のこと、無視?」
構わず中に入っていった健太達を、数秒間その場で突っ立っている状態を保ちながら見る。
そして、自分のことが忘れられていることに気付いた。
「ま……待ってくれ!!」
慌てて吉行は走り出した。