その179 記憶喪失 14番目
数分後。
駆け付けた警察によって、不良達は確保された。
傷だらけとなっている健太は、一旦病院に行くこととなる。
だが、怪我の方は、あれだけバッドで殴られておきながらも、大したことはないらしい。
軽い手当を済ませて、健太はすぐに病院から出ることが出来るらしい。
「良かった……健太君……本当によかった……」
「そんな……泣かなくてもいいって、かなえさん」
病院ロビーにて、健太とかなえ、吉行達は話をしていた。
「それより健太。記憶が戻ったって本当か!?」
「うん……不良達に頭を殴られた時に、記憶が戻ってたみたい」
「結局、ショック療法じゃねぇかよ」
健太の記憶の取り戻し方について、そう突っ込む他なかった。
ともかく、健太は自分の記憶を取り戻したのだ。
これで、明日からは普通に生活することが出来るだろう。
「……その前に、ちょっと寄って行きたい所があるんだけど、いいかな?」
「寄って行きたい所ってどこだ?」
健太がそう言うと、大貴が場所を尋ねて来た。
「病院の屋上」
「屋上に?そんな所に何の用事があるの?」
かなえがそのことについて尋ねてくる。
「うん、ちょっとね……空を見てきたいんだ」
「空をか……まぁ、いいんじゃないか?後は帰るだけなんだし」
智也からその許可が下りたことで、健太は屋上へと向かった。
「やっぱりいた……お〜い、静香さん!」
「あら?……健太君?ってどうしたんですかその傷は!?」
屋上に行ってみると、やはり静香は屋上で空を見ていた。
まさか健太に会えるとは……しかも、傷だらけの健太に会えるとは思ってもいなかったので、
静香は大層驚いていた。
「いやあ、いろいろあってね……」
まさか理由を話すわけにもいかないので、健太はそう言ってはぐらかすことにした。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「いや、病院に来た帰りに、ちょっとって思って……それと、伝えたいことがあったから」
真剣なまなざしで、静香を見る。
静香は、そんな健太の顔を見て若干顔を赤くしてしまう。
「あれ?どうしたの静香さん?顔が赤いけど……」
「な、なんでもないです!」
「熱でもあるのかな……どれどれ」
(ピトッ)
「ひゃっ!」
いきなりおでこを合わせられて、静香は驚く。
だがそれ以上に、健太の顔が間近まで迫っていることに、羞恥心を隠せずにはいられなかった。
「だ、大丈夫ですから。熱なんてありませんから!」
「そ、そう?」
健太は、そう静香に言う。
やがて落ち着いた様子の静香を確認した後、健太は言った。
「僕、記憶が戻ったよ」
「え?それ本当に?」
「うん……なんだかいつの間にか戻ってた」
健太は、そのことを伝えに、屋上まで来たのだ。
わざわざ、その真実だけを伝えに。
「だから、静香さんも早く元気になってね。待ってるから」
「……うん」
静香は、寂しげにそう頷いた。
そして、健太の記憶が戻ったところで、新たなる日常が始まった。
次回は登場人物紹介です。