その175 記憶喪失 10番目
そして、次の日。
「んで、結局健太の記憶はあんまり戻ってきてないのか?」
「うん……思ったほどは戻ってないような気がする」
学校に来ただけでは、戻って来る記憶に限界があるらしい。
どうやらあまり、健太は記憶を取り戻していない様子だった。
「しかし、今回のこれはすっかり難航してるなぁ」
「だね……早く健太君の記憶が戻ってくればいいんだけどなぁ」
マコが、それこそ懇願するような形でそう言った。
「……あいつは今日も学校休む気か?また行ってやるぞ……今度はもう少し人数連れて」
空席を見つめながら、吉行はそう呟いた。
その時だった。
(バン!)
とてつもなく大きな音と共に、何者かが入って来る。
その人物は……。
「な、お、お前は……!!」
「……これでいいのかしら?海田吉行」
そう。
昨日学校を休んだ、夕夏そのものであった。
「お前……」
「私はもう逃げませんわよ……どんな現実が前にあろうと、むしろその現実を変えるつもり、
ですわ」
「き、君は……」
夕夏の姿を発見すると、健太は目を見開く。
ただし、記憶喪失である為に、名前が思い出されることはない。
心が記憶しているのかもしれなかった。
「私の名前は佐伯夕夏……覚えてないかしら?」
「う、うん……ごめんなさい」
「謝ることはないんですのよ……むしろ謝るのはこちらの方ですわ」
「え?」
何のことだかさっぱりと言った様子の健太。
そんな健太に分かりやすいように、夕夏は説明を始めた。
「最初に言っておきますわね……あなたを記憶喪失に追いやってしまった原因は、元を辿れば
私にありますの」
「き、君に?」
「ええ……あの日、私はあなたと一緒に水族館に行ってたわ……そしてその後、デパートの
屋上遊園地で、観覧車に乗ったんですの」
「……!!」
そこまで言われて、健太はあの日のことを思い出した。
健太はその日、夕夏と共に水族館に来ていた。
その後で、場所を変えて、屋上遊園地の観覧車に乗ったのだ。
そうしたら、右肩が突然痛み出し、その痛みに耐えきれず、観覧車の入口から落ちたのだ。
「そうか……右肩の痛みは、その時に……」
確かに、健太は記憶喪失に至るまでの記憶を取り戻した。
だが、それでも完璧ではなかった。
「まさか……これだけの事実を知ったとしても、まだ記憶が戻ってきてないって言うの?」
ミサが、独り言のように言う。
そんな独り言にも、健太は答えた。
「うん……どうやらそうみたい。まだ全部の記憶がよみがえったんじゃないみたい。まだ、
頭の中がモヤモヤするし……全然分からないことだらけだ。僕がどんな人間だったのか。
どんなことをしてきたのか……そして、みんながどういう人なのか」
「健太……」
やはり、そう簡単には現実は変えられなかった。
しかし、無駄ではなかった。
夕夏がその事実をはなしたおかげで、健太はその日の記憶を取り戻すことが出来たのだから。
「ありがとう……夕夏さん。君のおかげで、何で僕が記憶喪失になったのかが分かったよ」
「……どう致しまして」
申し訳なさそうな顔をして、夕夏は健太に言った。
「けど、それは君のせいじゃない。右肩の痛みは、恐らく他の人によるものなんだと思う」
「まぁ、それは置いといて……とりあえず健太。これからも俺達頑張るから、お前も早く記憶
取り戻してくれよな」
「……善処はします」
吉行の言葉に、健太はそんな感じの返事を返した。
やはりこの話は長いな……。
けど、この話は結構重要な話なんですよね。
何といいますか、記憶をすべて取り戻すきっかけとなった人が、健太にとっての……。
ってあれ?
前回と言ってることが微妙にずれてる気が……。