その174 記憶喪失 9番目
「……」
夕夏は、部屋に引きこもっていた。
もう三日は、この部屋より外に出ていない。
理由は、自分の犯した罪についてだ。
「お嬢様。そろそろ学校に行かれてはどうですか?」
「……嫌。健太に顔を合わせるのが、嫌……」
どうやら、健太を記憶喪失させるに至らせたのが自分だと思っているらしい。
それで、未だ学校に行く気が起きないのだ。
「しかし……このままでは、そろそろお父様も」
「構わないわ……このまま退学させられようと、私は後悔しない……だって、健太を傷つけて
しまったのは、他でもない、私なんですもの」
思いだすように、夕夏は言う。
外にいる住持は、何とか夕夏を外に出そうと必死だが、肝心の夕夏は、何一つ住持の言葉に
耳を貸そうとはしなかった。
「……お嬢様」
その時。
(カーンコーン)
屋敷中に広がる、チャイムの音。
この屋敷のチャイムは、屋敷全体まで広がるようになっているのだ。
「お客様がいらしたようです。私が、出てきます」
「……」
夕夏は何も言わなかったが、恐らくは肯定の意を表すのだろう。
住持は、屋敷にやって来た人物の元に向かった。
「……はぁ」
住持が行ったのを確認すると、夕夏はベッドまで歩き、沈み込む。
そのまま、黙りこんでしまう。
「……」
このまま寝てしまおうかと考えていた時だった。
「お嬢様。お嬢様にお客様がお見えになっております」
「私に?……すぐに追い返しなさい」
「いえ、しかし……」
住持が言いよどむ。
何故そうするのかを考える……必要もなかった。
「佐伯!」
「!?」
そう。
夕夏のクラスメート……吉行が、自分の部屋の目の前まで来ていたからだ。
「もうお嬢様のお部屋の前に……」
「すぐに追い返しなさい!顔も見たくない……」
「バカ野郎!」
「!!」
突然、吉行は叫びだした。
「本当はここに健太達も連れてくる所だったんだが……今日は俺一人で来てやった。もし明日
もこないなんてことがあったら、大貴達も連れてくるぞ!それでも来なかったら……嫌が応
でも健太を連れて来てやる!!」
「な……何でそんなことをするのかしら!?」
「テメェが学校にこねぇからだろうが!!」
負けじと夕夏も声を張り上げるが、吉行の方が大きかった。
「何で学校に来ない?健太を記憶喪失にさせちまったからか?そんなの言い訳だ!テメェは
そうして自分で殻被って、勝手に被害妄想抱いてるだけだろうがよ!!」
「な、何を言ってるんですの!?被害妄想なんて……」
「会うのが怖いか?怖いんだろう!今の状態の健太に会うのが、テメェにとって怖いんだろう!!」
「!!」
図星だった。
まさしく、夕夏が学校に来ない理由は、それだったからだ。
「確かに、テメェは罪被ったのかもしれねぇ……けど、それで学校来ないとかおかしいな!!
テメェは目の前の現実から逃げてるだけだ!健太の記憶喪失という事実を、お前は認めよう
としてないだけなんだよ!!」
「わ、分かってるわよ!健太を記憶喪失に追いやってしまったのは私で、だから……」
「だから顔合わせないように学校に来ないだぁ?テメェそれでいいのか!?」
いつも以上に声が荒い吉行。
そんな様子の吉行に、若干夕夏はおじけついた。
「なるほどな……これが自分かわいそう病ってやつか。現実で見ると反吐が出る」
「言わせておけば……私の何が分かるって言うんですの!?」
「ああ分からないね!目の前の現実から逃げようとしている輩のことなんて、金払うから
分かってやってくださいって言われても分かりたくないね!!」
「!?」
まさかそう切り返すとは思わなかったので、何も言えばくなってしまう。
「……出る気はないんだな?じゃあ今日はこれで帰る……明日も来ないようだったら、学校に
来るまで何度でも来てやる……覚悟しろ」
そう言い残すと、吉行はそのまま屋敷を出て行った。
「……」
部屋の中で、夕夏は黙りこんでいた。
記憶喪失の話……本当に長い。
そろそろ疲れて来た。