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その173 記憶喪失 8番目

健太の記憶は、少しずつではあるが、確実に戻ってきている。

だが、それもほんのわずかな記憶でしかない。

完全に記憶が戻るには、まだまだ時間がかかるみたいだ。


「……」


昨日は学校を休んだが、さすがに今日は休むわけにはいかない。

なので、健太は学校へ行く支度をしていた。

だが。


「……学校への行き方が分からないんだよな……」


そう。

健太は、自分の学校への道のりを完全に忘れてしまっていたのだ。

なので、誰か先導してくれる人がいない限り、健太は学校に行くことが出来ない。


「……けど、そんな人。都合よく現れるはずもなくて……」


なす術がない健太は、とりあえず部屋を出ることにした。



(ガチャッ)



「よっ、健太」

「うわぁ!」


突然目の前に、一人の少年が現れて来た。

それを見て、思わず健太は驚いてしまう。


「何だよ。そんなに驚くことはないだろ?」

「お、驚きますよ……いきなり扉の前にいたら」

「ああ……その敬語、なんだか堅苦しいからやめてくれない?タメでいいから」

「あ、うん……」


その言葉を聞いて、健太はため口になおした。


「それで、今日はまたなんで……」

「何言ってるんだよ。学校への道が分からないんだろ?俺が連れてってやる」

「本当に?ありがとう……えっと」

「吉行だ」

「ありがとう、吉行」


健太は、吉行に素直にお礼を言う。


「(なんだか、中学の時に初めて話しかけた時と似てるな)」


吉行の頭の中では、昔の記憶がよみがえってきたような気がした。

だが、自分の記憶がよみがえってもどうしようもないと判断した吉行は、


「ほら、行くぞ。健太」


健太に学校に行くよう急かした。


「あ、待ってよ吉行!」


置いて行かれまいと、健太は一生懸命ついて行った。















「おっす、木村」


教室に入って来ると、いきなり挨拶をしてくる人物が一人。


「おはよう……えっと、大貴、だっけ?」

「お?俺の名前は覚えてたのか?」

「いや、さっき吉行から聞いたんだけど……」

「……まぁいいか」


大貴は、一人勝手に納得していた。

そんな大貴の反応を見ても、健太は何を意味しているのかあまり理解できていなかった。


「おはよう、健太」

「おはよう……えっと、美奈さん」

「昨日会ってるからね。忘れてたら殴ってる所だったわ」

「そりゃねぇだろ」

「実力行使のショック療法って言えば、なんとかなるわよ」

「ならねぇよ」


吉行は、美奈に突っ込みを入れていた。


「おはよう……健太君」

「あ……おはよう。かなえさん」

「……ん?俺、確か相沢とかの名前は教えてないはずだけど……」


どうやら吉行は、何人かの名前は事前に教えるということをしなかったらしい。

それが何を意味するのかは、いまいち健太には分からなかった。


「じゃあ、健太は相沢の名前は、かすかにだけど覚えてたということか?」

「それじゃあ、ボクは?ボクは?」

「えっと……マコ?」

「うんうん!」


言われたマコは、嬉しそうにうなづいていた。


「どうやら、印象深さの違いによって、覚えているかいないかが変わるらしいな」

「みたいね……」

「……あれ?あそこの空席は……」


その時。

健太は、ひとつの空席を発見した。


「ああ、あの席は……」

「やめとけ」


吉行がその席の主の名前を言おうとした時、それを大貴が止めた。


「何故?」

「今は言うときじゃない……あいつから会いに来るのをやめてるのに、お前が名前を言って

 しまっては、無意味だろ」

「そっか……」


大貴の言葉に、吉行は納得した。

結局、その日。

健太が気になっていた空席の主は、現れてこなかった。
















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