番外編その15 惚れたあの日 2番目
「え〜だからここの答えは……」
授業中。
やはり吉行は終わらなかったらしく、後ろの方でしばらく立たされていた。
後ろの方の席に座っている大貴は、吉行の小さな呟きがよく聞こえていた。
「どうして見せてくれなかったんだよ……どうして俺にチャンスくれなかったんだよ……」
それらの言葉を、大貴は軽く受け流していた。
正直の所、聞いたところで仕方がないと考えた為だ。
「ちょっ、ひどくない!全部無視!?少しは反応しても……」
「……海田。廊下に立ってろ」
「……すみませんでした」
あまりに騒いでいたためか、とうとう吉行は外川より『廊下に立ってろ』宣言を喰らってしまった。
その様子を見て、笑いをこらえている生徒が数名。
「……う〜ん」
しかし大貴は笑っていなかった。
というか、吉行のことを、見てはいなかった。
「何というか、刺激がないな……」
大貴は、今の生活の普遍さに、正直の所退屈さを感じていた。
たまにやって来るイベントに参加してみるはいい物の、それはほんの数回しかないので、結局の所、ほぼ毎日暇な日を送るほかなかったのだ。
「何か、新しい刺激が欲しいな……」
「それは恋、とかだな」
「……は?」
言われて、大貴は前を見る。
しかし、言った本人であろう外川は、普通に授業をしているのみであった。
「……幻聴か?耳鼻科に行った方がいいかな……」
この日、大貴は自らの耳に対して疑いを感じたという。
昼休み。
大貴は、何となく図書室に来ていた。
理由は、教室にいると、しつこく吉行が迫って来る、と言うのも一つの理由だ。
とにかく、静かな時間が欲しかった、というのが本心だろう。
「ったく、少しは静かにしろっつんだよ」
とりあえず吉行は、本棚の中にある本の中から適当な物を探す。
そして、一冊の本を見つけた。
それは。
「……流れ星の岩男?何だこのタイトル。さすがにこれはちょっと」
というわけで、その一冊はやめて、別の本を探す。
「ふむ……薔薇峠、か。一体どんな本なんだ?これは」
多少興味を持ったのか、その本に手を伸ばそうとする。
だが、隣からもう一本の手が伸びて、その本を取ろうとしていた。
大貴は、このことには気づいていない。
なので、
(ピトッ)
互いの手が、こんな風にベタに触れあうということも起こってしまったというわけだ。
「あ、すまな……い」
「こちらこそ、ごめんなさい」
大貴は、その人物のことを見て、固まった。
その人物は女性だった。
大貴よりも背は低めで、青色のショートヘアー。
そんな彼女を一言で表現するなら、『可愛い』という言葉が出てくるだろう。
ともかく、大貴の目の前に現れた少女は、人形のような少女だった。
「……その本、先に読んでもいいぞ」
「え?本当ですか?ありがとうございます!」
大貴が本を譲ると、その少女は笑顔で大貴にお礼を言った。
「う……それじゃあ、俺はこれで」
これ以上この場にいると、理性が保てなくなると考えた大貴は、やがてすぐに図書館を出て行った。