その161 流れで行われたデート 5番目
開始時間5分前くらいに、健太と夕夏の二人はイルカショーの会場に到着した。
「ここでやるみたいだね」
「結構広いんですのね……」
目の前に広がる水槽には、二・三匹のイルカが泳いでいる。
それを囲むように観客席があるのだが、本日は日曜日ということもあって混み合っていた。
見た所、空いている席などほとんどない。
「みんなこのイルカショーが目的なのかもしれませんわね」
「そうかもね……何か噂によると、結構派手らしいから」
(ブー!!)
その時。
開始の合図なのか、どこかからブザーのような音が鳴る。
それと同時に、周りの声も次第になくなっていった。
「「……何で?」」
健太と夕夏の二人は、そんな観客達の反応に、思わずそう呟いてしまった。
そんな二人を無視するかのように、
『今からイルカショーを始めるわよ!!……一応言っとく。来てくれて、その……ありがとう
』
「もう何なの?この水族館……」
アナウンスの声を聞いて、健太はそう呟いた。
だが次の瞬間。
(ピ〜!!)
という笛の合図とともに、イルカ達が一斉に水中から飛び出してきた。
「「「「お〜!!」」」」
観客達の驚きの声が重なる。
その声に応えるように、イルカ達は更なる技を見せる。
それは、輪潜りだ。
空中に置かれている二・三個の輪を、イルカ達は軽く潜り抜けていく。
そして、綺麗な弧を描いての、着水。
「す、凄い……」
夕夏は、そんなイルカ達の動きを見て、そう呟いていた。
だが、健太含めた他の人達は、次のような疑問が浮き上がっていた。
「(どこにトレーナーの人がいるんだろう……?)」
そう。
本来なら、イルカの動きを指示する役目をするはずのトレーナーが、そこにはいないのだ。
なので、何処から笛を吹いているのかと、健太は疑問に思っていた。
「皆さん!今日はイルカ達の為に来てくださって本当にありがとうございます!」
正面から現れてきた若い女性は、どうやらドルフィントレーナーの人……つまりはこのイルカショーの司会らしい。
「あの笛でイルカ達を……?」
「うん。そうだよ」
先程の笛の音を聞いたうえでの夕夏の発言に、健太がそう答えた。
そんな二人に構わず、トレーナーの人は、イルカに餌をあげたのち、話し出す。
「ところでみなさん、この三匹イルカそれぞれに名前があるのですが、ご存知ですか?」
「名前?……ジャスティスとかかしら?」
「何その名前……正義?」
名前と聞かれて、夕夏のネーミングセンスが微妙だってことが分かった所で、トレーナーの人は答えを言った。
「右から、ステファニー・ジョニー・玄重郎です」
「玄重郎!?最後だけ何故に日本名!?」
「館長の意志です」
「館長〜!?」
謎の驚きを見せる観客。
そんな観客の質問にも律儀にトレーナーは答えた。
「謎ね、この水族館の館長」
「そ、そうだね……」
夕夏の言葉に、健太は戸惑いながらも答えた。
「それでは早速参りたいと思います!当水族館名物、イルカショーの始まりです!!」
トレーナーの声とともに、イルカショーの始まりが告げられた。
まだまだ続きますよ〜