その160 流れで行われたデート 4番目
「うわぁ〜」
順路通りに進み、現在健太と夕夏の二人は深海魚コーナーに来ていた。
深海魚コーナーというだけあって、辺りを暗く演出している。
先ほどまでの水槽内トンネルとは違い、こちらはちゃんとした展示形式をとっていた。
「へぇ〜こういう魚が……」
「……」
新たな発見をしたかのような瞳をして魚を見る夕夏に、健太は夕夏の新たな一面を発見した
ような気がした。
「?どうかなさったのですか?」
「あ、なんでもないよ……あれ?こんな名前の魚もいるんだ」
ネームプレートの所を見ると、そこには『アトラント』という言葉が書かれていた。
名前の由来は、その昔海底に沈んだ都市、『アトランティス』に、その化石が見つかったことにあり、最近の研究によって、生きた『アトラント』を発見。
種の保存のためにも、こうして水族館で飼っているとのことだ。
「そんな由来が……ってか、初めて見たよ、こんな魚」
「健太も初めてなんですの?」
「うん。この水族館には、どうやら珍しい魚もいるみたいだね」
健太でも初めて見る魚がいるくらいだ。
水族館に来たことのない夕夏だったら、尚更知らない魚が多いことだろう。
「こう言った場所って、新しい発見が出来ますわよね」
「そうだね」
「同じ『水族館』なのに、きっと場所によって、季節によって、様子とかは全然違うのでしょうね……」
夕夏は、何かを期待するような、そんな眼をしていた。
「……だね」
健太も、夕夏の意見に賛成だったらしく、相槌を打った。
「とにかく、色んな魚を見ないことには、家には帰れませんわ!」
「アハハ……それじゃあ、今日はこの中の魚をコンプリートしていこっか」
健太がそう提案すると、
「そうですわね!それじゃあ、この勢いに乗って、次の所に行きますわよ!健太!」
「うわっ!」
(グイッ)
夕夏は、健太の手をとり、引っ張る。
しかし、いきなりのそれに、流石の健太の体もついていけなかったのか、バランスを崩してしまい、
(バタン!!)
そのまま前に倒れてしまった。
もちろん、あくまで夕夏を傷つけないために体を捻り、下敷きになるような形で。
「イタタ……大丈夫?」
「いえ、私は大丈夫ですけど、健太は……」
夕夏がそう言いかけた瞬間。
二人はあることに気付く。
「「……」」
互いの顔がかなり近いところにあった。
端から見ると、夕夏が健太を押し倒しているように見える。
しかも、水族館の順路のど真ん中で。
「ご、ごめんなさい!」
夕夏は慌てて健太から離れて、謝る。
「あ、いや、こっちこそ急にバランス崩したりしちゃってごめん」
「いえ、私が引っ張ってしまったばっかりに……」
「……なら、二人で謝ろうよ」
「え?」
健太のその提案に、夕夏は目を丸くする。
構わず健太は続けた。
「どちらも悪いなって思った時に、それで何かを言ってても仕方ない。だから、二人で謝る」
「……よく分かりませんが、謝ればよろしいんですのね?」
「うん。それじゃあ……」
健太のその声の後、
「「ごめんなさい」」
二人同時に謝った。
その時だった。
『まもなくイルカショーが始まるみたいよ。べ、別に来て欲しいわけじゃないんだからね!時間があったらでいいんだからね!!』
というアナウンスが流れてきた。
「……えっと、とりあえずイルカショーがあるんだね」
「そうみたいね……行ってみましょ!」
「そうだね」
夕夏の提案により、二人はイルカショーを見に行くこととなった。