その155 演奏会 3番目
中に入り、健太達は演奏会が始まるのを待っていた。
中には結構な人……それも、席が全部埋まってしまう程の人がいた。
収容数は約1000人とのことなので、かなりの人が入ったこととなる。
「しかも、その半数は一般の方々ときた……」
「結構人気なんだね、うちの吹奏楽部って」
「まぁ……演奏うまいし、地域で何回か定期演奏会開いてるみたいだけど、いつもこんな感じ
らしいぞ」
「へぇ〜」
大貴からの情報に、素直に一同は感心した。
「後どのくらいで始まる?」
「う〜ん、後2,30分くらいかな?」
「結構まだ待つんだね」
健太が時間を尋ねたところ、まだ結構な時間がかかることが分かった。
なので、美咲がそう呟いていた。
「そりゃあ吹奏楽の演奏って、準備段階からいろいろやらなきゃいけないだろうからな」
「そうね」
吉行の呟きに、ミサが同意する。
「ところで、大地と由美はどこに行った?」
「いや、さっきから後ろの方にいるけど」
「……あれ?」
吉行が健太にそう尋ねたところ、果たして背後で手を振る大地の姿があった。
「……あれ〜?」
もう一度、そう呟いた。
「さて、いよいよ本番となるわけだけど」
吹奏楽部の部長が、一同にそう言った。
「今回は何と1000人もの人が集まってくださった……失敗は出来ないよ?」
「「「はい!」」」
声を揃えて、返事を返す。
一方で、かなえは心の中で呟いた。
「(も、もし失敗したら……私)」
しかし、やがてすぐにこうも呟いた。
「(……ううん。大丈夫。今までだって成功したんだもん。普通に……いつも通りにやって
いけば、必ず成功する!)」
「お前ら、一つだけ聞きたいことがある」
そこで突然、部長が一同にとある質問を投げかけて来た。
その内容は、次のようなものであった。
「こういった場において、一番大事なことって何だか分かるか?そうだな……二ノ宮。どうだ?」
「え?私……ですか」
一方で、尋ねられた夏美は、答えが分からないと言ったような感じであった。
他の人達も、理解出来ている様子はない。
……だが、かなえは薄らとだが、分かっているような気がした。
「……いつもを忘れずに、ですか?」
「ふむ……それも答えの一つだな。いつもの練習の内容を忘れずに、己の力を出し切るのが
ベストだ……だが、それ以外にもう一つ、答えがある」
そう前置きを置いて、部長は言った。
「……それは、感謝だ」
「感謝……ですか?」
「そうだ。この場で演奏させてもらっているという感謝の念……聴いてもらってるという感謝
の念……目の前にいる人達に対する感謝の念を忘れるな。そして、その感謝の念に対する
答えとして、俺達は最高の演奏をする。これこそが、大事なことだ」
「部長……」
確かにそのとおりだと、この場にいる誰もが納得した。
「だが、俺達は人間だ……失敗もするし、恥もかく……けど、それがどうした。失敗したり
恥をかいたりしたら、それをフォローすればいいだけの話。失敗したからって、ウジウジ
するなよ。失敗してもいいから、最後までやりきれ!」
「「「は、はい!!」」」
「(失敗してもいいから、最後までやりきれ、か……)」
夏美は、その言葉を心の中で復唱する。
「……そろそろ時間だ。スタンバイ!」
部長のその言葉と共に、一同は動きだす。
そして、配置についた所で、舞台の幕は上がった。