その153 演奏会 1番目
夕夏の看病に行ったその次の日。
「う〜ん」
「どうしたの?」
悩んでいるかなえを見つけた健太は、かなえにそう尋ねた。
しばらく考えた後で、かなえは健太の問いに答えた。
「実は……今週の水曜日に演奏会をやるんだけど……」
「演奏会?吹奏楽部で?」
「うん……だけど、うまくやれるかなって今頃心配になって」
水曜日というと、通常は平日の為、そう言った行事が行われることはない。
だが、この週の日曜日は祭日の為、吹奏楽部で演奏会を行うこととなっていたのだ。
場所は、どうやらこの近くの体育館らしい。
「大丈夫だよ。今までだって練習してきたんでしょ?」
「うん……」
若干不安の気持ちが取り除けないと言った様子のかなえ。
それを見て健太は、
「いつものようにやれば大丈夫だって。当日は多分僕達も行けるだろうから、がんばって!」
「……うん!」
健太がそう言うと、かなえは途端に笑顔になる。
それだけ、健太の放つ言葉には、影響力というものがあったのだ。
「おっと!それを聞いたら、俺達だって行くぜ!」
突然健太とかなえの二人の元に現れて来たのは、ご存じのとおり、吉行だった。
「勿論大貴とかも連れてな!」
「俺もか?何故だ」
「吹奏楽部って言うと、あいつもいるだろ……?」
「!!」
耳元でそう言われて、大貴は気づく。
「ばっ……俺は……」
「決まりだな」
「……くそっ」
悪態をつくが、大貴はどうやら観念したみたいだ。
「後は……中川!お前も行くよな?」
「勿論よ……かなえの晴れ舞台、見に行かないわけないじゃない」
「私も行くわよ」
ミサも行く意思を見せる。
「後は……委員長!」
「はい?どうかしましたか?海田君」
吉行は、近くで本を呼んでいた美空に話しかける。
話しかけられた本人である美空は、何の話かまったくわかっていない様子だった。
「今度吹奏楽部の演奏会があるらしいんだよ」
「はぁ……それで、私はどうしたら……」
「だからよ、みんなで見に行こうって話になったから……お前も一緒に行くか?」
「え?私もいいんですか?」
「当然だ。クラスメイトだろ?」
笑顔で吉行は、美空にそう言いかける。
すると、美空の顔が少々赤くなる。
そして、
「……はい。私でいいなら」
「決まりだな」
不敵な笑みと共に、そう吉行は呟いた。
「後は雛森がいればよかったのだが……」
「マコは今日は仕事でいないから、明日にでも聞いてみよう」
マコは、仕事の為に今日は欠席しているのだった。
「それじゃあ……これで全員か」
「まだ夕夏が……って、あ」
ミサがそう言いかけた時に、思い出した。
夕夏は今、病院にいるのだ。
抜け出してまで演奏会を見に行けるわけがない。
「……夕夏さんはまた今度、だね」
「だな」
健太がそう言うのと同時に、大貴が同意した。
と、その時。
「俺達も行っていいんだよな?」
(フッ)
突如何もない空間から、大地と由美が登場した。
「うわっびっくりした〜。またかよ」
「私達も行くからね」
「ま、まぁいいけど……」
かなえは、苦い笑顔を浮かべながら、そう言った。