番外編その13 厄介な来訪人 4番目
「な、何!?」
最初に言葉を発したのは、将太であった。
将太は、驚きのあまりに次の言葉が出ない。
何に驚いたかと言うと、自分が指名されなかったことに対してだ。
他の人達―――とりわけかなえとマコも、驚きを見せていた。
健太が指名されたことに対してだ。
一方で、吉行と美奈はこういうことが予測出来たのか、逆に笑顔を見せていた。
咲は、健太がどういう人物なのかある程度知っていたため、ほっとしたような顔をしていた。
「ゆ、夕夏……お前は俺より、こんな貧相な奴を指名すると言うのか!!」
「貧相……?」
健太は、今まで聞いたこともないような単語を聞いたので、思わず聞き返してしまった。
構わず夕夏が答える。
「あんたなんかより、健太の方がよほどいい人よ……ほら、分かったなら帰ってくださる?」
「納得いくかあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
遂に将太はキレた。
「うわっ!何だこいつ!?」
「自分が指名されなかったからって、嫉妬のあまり怒ってやがる!!」
そんな様子を見て、吉行がそう叫ぶように言った。
「うるさいのよ、アンタ!」
(ガンッ!)
ミサによる鉄拳制裁が下される。
殴られた本人である将太は、脳天を押さえながら倒れこんだ。
「お〜い、大丈夫か〜」
(ツンツン)
吉行は、倒れた将太の体をつっついて反応を見る。
大地も面白そうに眺めていた。
「くっ……」
少し体が動いた気がした。
「お?生きてるか?」
「生きとるわ!こんなので死んでたまるか!!」
「元気だね〜」
「当たり前だ!夕夏を妻にするまで、俺は死ねないんだ!!」
「じゃあ死ななきゃいいじゃない。勝手にすれば」
「冷たいお言葉ありがとうございます」
厳しいミサの言葉に対して、将太はそう切り返す。
由美は、そんな将太に一言言った。
「男の人って、みんなこう言う感じなのかな……?」
「いや、違うから。絶対違うから」
全力で健太はそれを否定した。
「だが……どうしてだ。どうしてお前は俺を選んでくれない……金か?金が足りないのか!?
金なら出す。だから俺と……!!」
「そこよ」
「……え?」
途端に、夕夏の顔は真剣そのものになる。
健太達は、そんな夕夏にただただ驚くばかりであった。
「あんたのそういう所が嫌いなのよ。何でも金で解決しようとして……金しか考えられない
ような連中は、そこら辺にゴロゴロ転がってるわよ!!私だって金持ちよ……確かに
金なら持ってる。けど!本気で人の心もらいたいなら、金じゃなくて、自分の心で勝負
してみなさいよ!!」
「ゆ、夕夏さん……?」
その剣幕に、健太は思わず夕夏の名前を呟く。
他の人達も同様で、ただ夕夏を見ているのみだった。
そんな一同を差し置いて、夕夏は続ける。
「私はね。優しくて、強くて、頼りがいのある男がタイプなの……金に心を動かされない
ような強い心を持つ男がタイプなのよ」
「じ、地味にそのセリフが痛い……」
「吉行君。空気読んでよ」
部屋の端の方で、落ち込む吉行に対して由美がそう言っていた。
更に夕夏の話は続く。
「あんたみたいに、人の心すらもお金で買うような人間に……私が行くわけないでしょ!!
……出ていきなさい。即刻、出ていきなさい。私は、木村健太を選んだ。それで終わり。
あんたは選ばれなかった……それで満足しなさい!!」
「……分かったよ。次会うときに後悔するんだな、夕夏」
(ダッ)
将太は、夕夏の病室を出る。
その様子を見た夕夏は、正直なところほっとしたという。
だがこの時、夕夏は……いや、一同は知らなかった。
このあと、あんな展開になるなんて……。
次回は登場人物紹介です。